クイナの戸を叩く音
昨日今日と兵庫県明石付近でヒクイナの声を求めて溜め池を巡ってきました。当地でヒクイナの調査をしているW辺さんの案内です。W辺さんは、とにかく暇があればヒクイナの調査をしている方で、この池には2羽、こちらは3羽がいるとしっかり調べられていてとにかく詳しい。しかし、ヒクイナはペアリングできると鳴きやんでしまうため現在独身♂であること、そして録音ができる静かなところという私のわがままな希望の場所はかなり限定され、ご苦労をおかけしてしまいました。
今回の私の課題は、関東地方では少なくなってしまったヒクイナの鳴き声を録音したいということもありますが、古来詩歌に詠まれている「秧鶏の戸を叩く音」の解明です。秧鶏はヒクイナ、戸を叩く音はたとえば「源氏物語」で光源氏が蟄居した明石の屋敷周辺がいかに風光明媚なところであると記述のなかに「くひなのうちたたきたるは、たが門さしてとあはれにおぼゆ」と、ヒクイナの声を門を叩くような音で鳴くと表現しています。しかし、CDには「キュルルルル」という尻上がりの声が収録され、とても戸を叩く音には聞こえないのです。
今回、夕方と日の出頃に現地に出向いた他、一晩PCM-D50を置いて録音をしました。周辺は、住宅地が迫る里山のなかの用水池です。丘からはウグイスのさえずりやコジュケイの声が聞こえ、住宅地ではイヌが吠え子どもたちの歓声が聞こえます。朝はニワトリの声も聞こえる環境です。まさに、万葉の歌人同様、人家のそばでヒクイナが鳴いていることになります。
今回わかったのは「キュルルルル」声は、あまり鳴かない!ということでした。ほとんどが、「コッ」あるいは「クッ」という区切った声で、これを1.5秒くらいの間隔で鳴き続けていることが多いのです。これが「コッコッ」鳴きです。
「ruddybreasted_crake.mp3」をダウンロード
たとえば、夕方は19分33秒間「コッ、コッ」と連続して鳴き、「キュルルル」はこの間に2回だけでした。早朝は、22分間「コッコッ」と鳴き、「キュルルル」は夕方よりは多い5回ほど。しかし、ほとんどが「コッコッ」鳴きで、戸を叩くという表現に合致する鳴き方でした。
それならば、ヒクイナの声を戸を叩く音と表現されるのもあながち、おかしなことではありません。鳥の声を生活の音にたとえ、詩歌に詠む風雅な古人の自然観に感心させられます。すでに関東地方では、ほとんど聞くことが無くなってしまったヒクイナの声、ヒクイナもいなくなればこうした感性も失われていくことになりかねないとも憂います。
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