鳥を追い払う実験
昨日から泊まりで、某空港のバードストライク対策の調査に行ってきました。
いつもお世話になっているHさんから、オオタカやモズの声を借りられないかの依頼です。何に使うのか聞くと、空港に集まる鳥を猛禽類の声で追い払う実験をしたいとのことでした。飛行機に鳥がぶつかるバードストライクの問題は、とても深刻です。私の立場からは「鳥の領域に人が入り込むのが悪い」と思うのですが、こと人命に関わることですから声を大にするわけは行きません。こういった対策では、すぐに捕獲が出てきます。捕獲=殺すですから、捕獲しないで追い払うことができたらベターな選択になるかと思い協力することにしました。行きがかり上、音源をお貸しするだけでなく実験にも立ち会うことになりました。
朝5時に起きて空港に行くと、厳重な警備に驚かされました。臨時のパスに顔写真付きの身分証明書を持ち、腕章を付け、車には許可証と旗を掲げます。空港内に入るまで2ヶ所でチェックを受けました。なにせ、滑走路の周辺に入るのですから当然こと。鳥は翼があって、自由に空港に入っていることを考えれば、なんとも不自由なことです。
空港の敷地内で鳥のいるところへ行って、オオタカなどの猛禽類の声を流す、そしてその反応を見る、というといっけん簡単な実験のようですが、これがなかなたいへんなことでした。まず、鳥が集まっているところが少ないのです。実験には、音を出す実験装置をセッティングしなくてなりません。そのため安定して鳥がいるところがあれば楽です。広い滑走路を一回りして、遊水池のようなところにツバメやカルガモが集まっているのを見つけました。まずは、ここで実験をすることにしました。
音を野外で出だすためには、それなりの装置が必要です。いくら空港とはいってもそこいらにコンセントがあるわけではありません。そのため、Hさんのマイカーのハイブリットカーが重要な役割を果たします。この車から安定した電源を取り、CDプレイヤーを作動させます。これをBoseのスピーカーから流すという段取りです。まず、このシステムで音がどこまで届くかまず確かめました。80mは届くことを確認し、この遊水池はほぼカバーできることを前提にいよいよ実験です。
鳥が来たらば、まず鳥との距離を測り、Hさんの合図で助手のN村さんがCDプレイヤーを回します。ここで感心したのは、Hさんの判断。ヒバリは空中に居るので空中で狩りをやるハヤブサ、ハクセキレイには地面に押さえつけて狩るオオタカと、対象の鳥によって流す声を変えるのです。その鳥にとって、脅威になる猛禽が違うかもしれないというこだわりです。
ところが、滑走路に近いので、飛行機が来るとものすごい轟音です。こんなに目の前で飛行機が発着して行くのを見たことはありません。映画「ブリット」の最後の空港のシーンのようです。
当然のことながらこの間、実験はできません。静まるのを待っていると鳥が居なくなってしました。また、鳥がやってくるのを待って・・・。今度は雨が降って来て・・・。ということで、なかなか思うように実験ができません。
多くは無反応の鳥が多いですね。また、反応があってもそれが音に対するものかの判断が難しいことがわかりました。私たちの動きかもしれませんし、上を飛んだハシブトガラスの可能性もあります。たえず周囲の他の要素も見ていなくてならないのです。ただ、ハクセキレイがハヤブサの声を流したとたん、飛び立ったことがありました。これは、声に反応したのか、それともちょうど飛び立つところだったのか、判断が難しいところでした。観察例をとくにかく集めなくては、何も言えないと実感いたしました。
考えてみれば、猛禽類の声に小鳥がどう反応するのかの報告は、ありそうでないのです。対策チームに鳥の専門家がいれば誰でも発想することなのだと思うのですが、聞いたことがありません。ひとつに効果がないだろうと思っていることがあると思います。私もそうです。でも、このような実験を地道にやって、ダメならば他の手を考えるという発想が必要だと思いました。いずれにいたしましても、明日も実験は続けられます。よい結果がでることを祈っています。写真は、実験風景、雨が降り始めてしまいました。
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