日本鳥学会から1週間
日本鳥学会が開かれて1週間ほど経ちました。東邦大学に集まった方々は、すでに職場や学校に戻られたことと思います。学会終了後、どのような感想があるのか、ブログや掲示板の書き込みを読ませてもらいました。多くの方が、学会の熱気やユニークな研究成果を高く評価し好意的な書き込みをしています。ここで自己満足で終わっては学会の発展はない、強いては日本の鳥たちの未来をも暗くすると思い、あえて苦言を述べておきます。
いちばん私が感じたのは、口頭発表のテクニックのお粗末さです。若い研究者の方が、上がってしまい声が裏返っているのは、まあ許せます。しかし、15分の持ち時間に詰め込みすぎの方が何人かいました。ですから早口になり、聞き取りにくくなります。私が聞いた発表はすべてパワーポイントを使用していましたが、1画面への詰め込みすぎも多いし、コマ数の多い人もいました。「ここは飛ばします」と数コマ流してしまうのは、いったい予行演習をしているのかと思いました。
気になったのは、一本調子でメリハリがない話し方です。重要なところは2,3回言って良いし、大きな声で話しても良い、ここで乗れば早口になるくらいでも良いのだと思います。全部重要だからと同じ調子で話されると話す方も聞く方も疲れます。話の展開のなかで、強弱が必要だと思います。
さらに、言葉の選び方です。なんでわざわざ難しい言葉を使うのだろうと思いました。わかりやすい言葉、一般的な言葉で解説するというのは簡単ではありません。内容を完全に理解し消化してこそできることです。学会は専門家の集まりであるからと甘えているのならば手抜きです。というのは、これからより研究を発展させるためには、一般の方に理解してもらえないとならないからです。仮に研究費を確保するための説明の場があったらとしたら、それを評価する人が同じ専門家とは限らないからです。
今まで、役人が役所のなかで予算を獲得するのに役人言葉でやりとりしていれば良かった時代でした。しかし、これからは仕分け人を前に説明するかもしれません。この仕分け人が専門家とは限らないのです。もし、学会で発表しているような言葉使いならば事業の存続が危ぶまれます。プレゼンテーションのテクニックがないがゆえ、日本の鳥類研究が立ち後れてしまう可能性があるのです。
録音をしている者として言わせてもらえば、マイクテクニックも下手です。話すときの息がマイクに当たり「ボッ」という音が絶えず入っていました。いわゆる”吹かれ”というノイズです。マイクを口の下に持って行けば、避けることができます。たったこれだけのことで、ずいぶん聞きやすくなると思います。
逆に「うまいなあ」と感心したのは、慶応大学の伊澤栄一先生の「集団飼育下のハシブトガラス若鳥オス間にみられる相互羽つくろいの機能」です。若鳥たちの順位形成の発見から社会構造の解明につながる可能性を秘めた興味深いお話です。このなかで伊澤先生は、他の方ならば「カラスの雄の若年個体、雌の若年個体」と言ってしまうところを「男の子、女の子」と話されたのです。
研究対象を擬人化して表現することにより、研究内容が主観的な印象を与えかねない危険な言葉の使い方です。しかし、それを越えるだけの検証と成果は、客観的な事実の積み重ねであって疑念を挟み込み余地はありませんでした。それより、先生が「男の子、女の子」と言うことで、ぐっとカラスに親しみを感じ研究成果を理解することができました。
いずれにしても、相手に伝えるためには完璧に研究成果をこなし理解した上で口頭発表するということが大前提となります。
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