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2011年1月27日 (木)

鳥インフルエンザって、野鳥が悪いのか

  野鳥に関わる者として鳥インフルエンザについて語らないわけにはいきません。
 急に鳥インフルエンザが猛威をふるっているように見えますが、実は東南アジアなどでは恒常的に発生していました。そのエリアの渡り鳥が北に帰ったとき、繁殖地で感染を広げ、日本にも渡ってくる渡り鳥が持ってきて、養鶏場などに感染を広げていると解説されています。
 このような、まるで野鳥が鳥インフルエンザの媒介者のような扱いの報道は疑問です。まず、鳥インフルエンザウィルスは、野鳥が恒常的に持っているウィルスです。とくに、カモ類は70%以上の感染率、留鳥のカラス類やスズメ類でも数10%と低いとはいえかなりの鳥が持っているものです。それなのに、野鳥の死体累々とはなりません。過去にもそんなおぞましい記録はありません。それは、鳥たちが持っている鳥インフルエンザウィルスは弱毒性だからです。
 問題なのは、鳥インフルエンザウィルスのなかの強毒性のタイプです。私は、この強毒性のウィルスがどこで作られたのかを今、問題にすべきではないかと思っています。弱毒性のウィルスが強毒性に変異するのは、感染を繰り返すことで遺伝子配列の変異によって発生します。いわば、ウィルスのキャッチボールが行われることで生じます。感染の回数が多ければ多いほど、強毒性が生まれる可能性が高いわけです。確率の問題です。
 野鳥の場合、具合が悪くなれば天敵を避けて隠れます。そこでは、感染は広まりにくいと思います。今回の出水のツル類も感染爆発が起きなかったのは、これに加え野生動物が持つ免疫力の強さでしょう。同じように、野鳥が高密度でいるマガンの伊豆沼でも起きていませんし、東京のハシブトガラスだって元気です。
 では、ウィルスのキャッチボールがどこで行われているかというと養鶏場だと思います。報道の映像でもわかるように養鶏場のニワトリの密度は、出水のツル類や東京のカラスどころではありません。それに密閉された逃げ場のない環境で、長年人に飼われ免疫力の落ちたニワトリが飼育されていることになります。
 野鳥たちが鳥インフルエンザのウィルスを持ったのは、今はじまったことだとは思えません。おそらく100万年単位で、鳥が培ってきたものだと思います。そして、歴史のなかに家畜が登場しても庭でニワトリが飼われていた時代には、まったく問題のないウィルスの存在であったのだと思います。それが、人よって養鶏場という鳥類にとって新たな環境が生まれたことで、ウィルスの変異が生じたと考えられないでしょうか。
 弱毒性のウィルスは、どの鳥も持っています。ですから、強毒性のウィルスがどこでどのように生じるか解明しない限り、養鶏場にニワトリたちを守っていくことはできないでしょう。
 そして、渡り鳥たちは、氷河期以来何100万年も渡りを繰り返してきました。ですから、それが感染を広める原因とは思えないのです。

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コメント

トリインフルエンザ、報道が盛んですね。私も、来月の「独り言」で触れるつもりです。これは、養鶏産業の過度の集中化による人為的な災害で、世界的な視野でなければ解決できないと思います。おっしゃること、ごもっともです。
だいぶ前の「書評」です。
http://www.cec-web.co.jp/column/midare/midare54.html

石渡様
 この説は、カラス仲間の研究者のなかでも以前、話題になったものです。
 科学的に鳥インフルエンザの流行を見れば、当然同じように考える方がいたのですね。
 ご支援、ありがとうございます。

ウィルスをほとんどの野鳥が持っていることは、世論のかなりの部分はわかっていると思います。

ウィルスがどのようにハイブリッド化して強毒化するのかというメカニズムは理解されていません。

過密な状態で飼育されている鶏の中で強毒化し、それに罹患して死んでいくのは理解できますが、自然界で野鳥が強毒インフルエンザで死んでいく因果関係については私はわかりません。

国民に解りやすく、不勉強なマスコミにも理解できるように 説明する責任が野鳥の会に求められていると思います。

naohnaoh様
 鳥インフルエンザについては、おっしゃるとおり、まだわからないことがたくさんありますね。それに、ウィルス自体が変異をしてしまうのですから難しいものがあります。
 日本野鳥の会には、研究ラボも無ければ鳥類の病理の専門家もいません。そのため、情報の収集と整理をしているところではないでしょうか。

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