日光のハリオアマツバメ-巣はどこに作るのか
先日、日本野鳥の会の事務所にいったおりにK南さんから、日光のハリオアマツバメの報告で面白い論文があるとコピーをいただきました。タイトルは、"Nesting Place of Australian Swifts(ハリオアマツバメの巣作りの場所)"です。なんと、この論文は今から100年以上前の1907(明治40)年に発行されたオーストラリアの鳥学会誌に発表されたものです。下記URLで、原著を読むことができます。
http://www.publish.csiro.au/?act=view_file&file_id=MU907073.pdf
この論文によると、日光の華厳滝周辺にハリオアマツバメとアマツバメの巣が崖にあり、雛もいたと書かれています。また、アマツバメ類を捕まえるために網を張り、糸につないだおとりを使って、1日に60~100羽を捕まえているとも書かれています。
なぜ、この論文が話題になったかというと”ハリオアマツバメは崖に巣を作るか”という疑問からです。私はアマツバメは崖、ハリオアマツバメは樹洞という認識でおりました。北海道に行ったとき訪れた牧場の片隅にある木の洞に、ハリオアマツバメが飛び込んでいくのを見たことがあります。「スッポン」とは音が聞こえそうな感じで、いつも飛んでいるスピードのまま小さな穴に飛び込んでいきました。
明治時代、華厳滝にはエレベータもなく近づくのたいへんだったと思います。まして、アマツバメ類が巣を作るところに行くというのは、難しいと思います。そのような中で、アマツバメとハリオアマツバメの巣と雛を区別することができたのでしょうか。
ただ、江戸時代の日光のガイドブック『日光山志』には、華厳滝にハリオアマツバメが登場します。第4巻の「岩燕」という項に描かれている鳥には「華厳滝に巣を作り、いつも峡谷を飛びまわっている、ツバメより大きく、尾は二つにさけ、尾先に小針がある」と解説されています。イラストの鳥の顔は、オウムのようですが尾の先には針状のものが描かれていますからハリオアマツバメに間違いありません。下記URLで『日光山志』4巻に行けますので7ページの「岩燕」を見てください。
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ru04/ru04_03137/ru04_03137_0004/ru04_03137_0004.pdf
では、現在の日光ではどうかというとアマツバメは比較的よく見られるもののハリオアマツバメの記録は極めて稀です。私の記録では、秋の渡りと思われるもの1例と繁殖期のもの1例しかありません。繁殖期の記録は、2007年5月13日だいや川公園のもので、この時の写真はE村さんの運営するサイトNikko Todayにアップされています。
http://nikkotoday.com/flowers/data/2007/harioamatubame1.htm
「レッドデータブックとちぎ」には、栃木県下では中禅寺湖の北側、男体山あたりのメッシュにマークが付いているだけで「過去に奥日光で樹洞に出入りするのが記録されている。」と、バードリサーチのH野さんが書いています。
http://www.pref.tochigi.lg.jp/shizen/sonota/rdb/detail/12/0025.html
私は、ハリオアマツバメは北海道の鳥という認識です。それは、北海道には大きな樹木があって樹洞がありハリオアマツバメが繁殖できるからだと思っていました。そして、『日光山志』に取り上げられ論文に書かれているほど昔の日光ではハリオアマツバメが多かったのであれば、日光の森には樹洞のある巨木が生い茂っていたのではないだろうかと想像できます。
ハリオアマツバメの営巣場所が樹洞であるという報告は今もあるのですが、崖にあったというの報告は100年前のこの論文だけ。はたして、ハリオアマツバメは崖にも巣を作るのでしょうか。
K南さん、面白い論文を教えていただきありがとうございました。
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日光の西ノ湖のほとりにミズナラの大木の森林がありますが、かつては中禅寺湖の周辺にはあのような巨木の茂る森林が広がっていたのでしょう。ならば、ハリオアマツバメが営巣していても全くおかしくないと思います。樹洞で営巣し、華厳の滝に採餌に行っていたのではないでしょうか。
投稿: 松田まゆみ | 2011年6月26日 (日) 22時10分
松田まゆみ様
ハリオアマツバメの営巣報告は、ご主人の報告が有名ですね。あの論文から枯れた巨木がある森や草原の独立木をイメージしていました。日光の森の中を歩くと、大きな切り株が残っています。かつては、おっしゃる通り西ノ湖周辺のような森が広がっていたことは想像にかたくありません。
もっと早く生まれてくるのだったと思います。
投稿: まつ | 2011年6月27日 (月) 08時07分
神戸です。
先日の講演会でハリオアマツバメのことについてお話なさっていたのが気になって、ハリオアマツバメのことを少し調べていましたら、山階の標本データにハリオアマツバメの捕獲個体に複数日光のものがあることがわかりました。
http://decochan.net/index.php?q=ハリオアマツバメ&p=2&o=ss
↑もし上のサイトがうまく表示されなければ、以下のトップページから入って、検索をかけてください。
http://decochan.net/index.php?p=1
どこかにフィールドノートや捕獲状況を記した資料があるといいのですが。。。
ひとまず情報提供です。
詳細までわからなくてすみません。
投稿: 神戸宇孝 | 2012年3月 2日 (金) 23時22分
神戸宇孝様
日光産のハリオアマツバメの剥製、たくさんあるのですね。
捕獲年がわかるのは、かなり古いですから、記事に書いた囮と網で捉えたのでしょうか。
投稿: まつ | 2012年3月 3日 (土) 08時31分