コノハズクはデュエットをするか
日光野鳥研究会の新年会は、タダの飲み会ではありません。普通2次会になると飲むだけですが、高度な発表があったりして素面でないと貴重なネタを聞き逃してしまいます。すでにいろいろなネタを忘れてしまっています。ふと、思い出したのは日光のライチョウの記録を調べていたときです。
今年の発表のなかでA部さんがコノハズクとヨタカの声の話をしてくれました。いずれも夜の鳥ですから、観察がしづらく検証の難しい鳥たちです。この中で、コノハズクの「ブッポウソウ」と聞こえる声は、雌雄がデュエットをしていることはないだろうかという課題を投げかけられました。コノハズク、昔はブッポウソウがそう鳴くと思われていたわけで、どこかでブッポウソウがデュエットしているという説を読んだ記憶がかすかにあったのですが、思い出せませんでした。
ところが、日光のライチョウの記録を調べるために矢沢米三郎・著『雷鳥』(1929・岩波書店)を見ていたら面白い記述を見つけました。この本は、かなり初期の鳥の本です。日本の鳥の本では、100冊にも満たない頃に発行されたものです。それだけに、タイトルはライチョウになっていますが、ライチョウの記述は、110 ページの内の47ページにすぎません。残りは、ブッポウソウと信濃希産鳥類のリスト、信濃希産高山蝶のリストなのです。当時は、100ページを埋めるほどのライチョウの記録がなったことになります。
ところで、このブッポウソウの項の文献に『通念集』に「雄「仏法」と鳴けば、雌「僧」と声をあわするなり」と書かれています。同様に、『倭訓栞』には「夜陰に雄「仏法」と鳴き、雌「僧」と鳴く也」とあります。
『通念集』は寛文12(1672)年、『倭訓栞』は安永6~明治20(1777~1887)年に成立した辞書と百科事典の間のような書物です。どちらも有名な文献なので『倭訓栞』は『通念集』の記述を踏襲しているのかもしれません。
フクロウ類のデュエットでは、シマフクロウが有名です。雄が「ブフォ」と鳴き雌がすぐに「ウー」と鳴くので、「ブフォウー」と一つの声のように聞こえます。次のとおりです。
「blakistonsfishowl10032519e.mp3」をダウンロード
私が録音したときは、これを30秒くらいの間を開けて1時間以上鳴き続けていました。これを毎日、朝と夕方にやるのです。これは、なかなかたいへんな作業ですが、これができるほど雌雄の結びつきが強いわけです。ときどき雌が先にないてしまったりします。最後は、雄だけの声で雌が「もういいや」と止めた感じでした。これと同じことをコノハズクがやるのでしょうか。
コノハズクの声は、このような感じです。
「oriental_scopsowl100521.mp3」をダウンロード
シマフクロウに比べれば、とてもテンポが速いのです。ただ、鳴き続けるのは10分くらい、長くても20分ほどですから、可能といえば可能でしょう。
シマフクロウの声は、知らなければ1羽の鳥が鳴いているように聞こえるはずです。これを発見した人は凄いと思います。コノハズクがデュエット鳴きをすると言っている『通念集』と『倭訓栞』では姿はブッポウソウの記述です。ですから、鳴いているのを見ているとは思えません。しかし、何か根拠があるはずで、これも今後の課題です。
毎度のことながらA部さん、ネタの提供ありがとうございます。
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まつ様
こんばんは。
メジロはオスがチューと鳴くとそのあと直ぐメスがチーイと鳴き、一つの声に聞こえることがよくありますね。
コノハズクは1羽で鳴いてる映像をTVで見たことがあり録画したのですが、録画したテープが見つかりません。。
投稿: kochan | 2012年2月28日 (火) 21時16分
kochan様
私は、以前関わったNHK-BSの『野鳥百景』という番組で、コノハズクが2羽並んだ映像を取材班が撮ってきたことあります。これは、蒲谷鶴彦先生が登場する大台が原のコマドリ編なのですが、昼から鳴いていたそうです。
今、VTRを確認しようと思って久しぶりにVTR機を動かしたら映像がでてきません。時間がかかりそうなので、確認するのはいずれまた・・・
投稿: まつ | 2012年2月28日 (火) 21時55分
毎度話題のネタにしていただきまてありがとうございます。
コノハズクの鳴き交わしは、一般に雄の「仏法僧」に対して、雌は雄より高音で「コッコー」と2音で返しているようです。しかし、雄は2音で鳴く場合も多いので、雌の声がうまく重なり合って3音として聴きなせるかもしれません。
昨シーズンは、雌と思われる個体が単独で、かつ単音で長時間断続的に鳴くのも確認できました。鳴き交わしとは別の鳴き方をしているようでした。
今年の新年会での私のメインの話題は、昨年ブログでもご紹介いただいた「仏法僧」の高音と低音についての続報でした。
3音目の「僧」で音をはずしたように高音となり、以後全体が徐々に高音になっていく様子を観察しました。この変化を何とか数字で示したいと思い、いろいろと検討中です。
何かよい解析方法がありましたら、ご教授ください。
以上のようなコノハズクのさまざま鳴き声は、バイノーラル録音の時にもご紹介された、こけこっこさんのHPで聴くことができます。
興味のある方は是非どうぞ。
投稿: A部 | 2012年2月29日 (水) 19時44分
A部様
毎度、ネタにさせていただきもうしわけございません。
思い出したのは、日本で初めて映像として捉えられた夜に鳴いているコノハズクというのがあるはずなのです。これは、NHKの当時自然のアルバムなどのスタッフが山中湖で撮影したという映像です。何年のことかもうわかりませんが、高感度カメラの開発されたというあたりだと思います。
後に番組になりましたが、最初はニュースとして取り上げられたと記憶しています。
この映像を見れば、1羽が鳴いているのかリップシンクロを見れば解るかもしれません。いずれ、NHKのアーカイブをさがして見たいと思います。
投稿: まつ | 2012年3月 1日 (木) 21時16分
まつ様
自然のアルバムという事で、今日8mmに録画したビデオを3時間分見ていたのですが、残念ながらコノハズクは出てきませんでした。
私が記憶しているのは、木の洞の中から顔を出して鳴いているものを超高感度で撮影されたものだと記憶しています。
VHSにも録画しているのですが、ビデオデッキが動かず確認できませんでした。 録画した覚えがありますので、上書きしてない限り、残っていると思います。
投稿: kochan | 2012年3月 5日 (月) 23時01分
kochan様
私の記憶では、大きい2つに分かれた木の又のようなところにとまっていたように思います。
他にもあるのかもしれません。
ただ、自然のアルバムをはじめ多くの番組では、後で音ののせたりしているので、信頼性にややかけますが・・・
投稿: まつ | 2012年3月 6日 (火) 09時09分
当時NHKディレクターの佐藤さんという方の文章です。
http://kamuimintara.net/detail.php?rskey=6198501z02
以前から何の番組の記事か気になっていたのですが、年代からするとkochan様がご記憶の「自然のアルバム」かもしれません。
そうすると、84年頃の放送と思われます。当時、私は学生でテレビをもっていなかったのでたぶん見ておりません。
投稿: A部 | 2012年3月 7日 (水) 00時45分
A部様
私の記憶では、山中湖でしたが勘違いでしょうか。私も20~30歳の間は、TVのない生活をしていました。1984年ならば、TVがありましたのでこれかもしれませんね。
投稿: まつ | 2012年3月 7日 (水) 11時37分