低音の魅力-サンカノゴイ
森林の小鳥は、なぜ高い声でさえずるのか。それは、高い音のほうが障害物があっても音が通るからだと思います。たとえば、電車の中でヘッドフォーンをしている人から「シャカシャカ」という高い音が聞こえてくるのは、高い音が隙間を通って聞こえるからです。森のようないろいろな物がある中では、高い音のほうが有利なことになります。ただし、高い音は遠くまで聞こえないというデメリットがあります。
それに対し、低い音は逆に遠くまで聞こえるけれど、障害物のあるところで通りにくいということになります。
このシーズン、アシ原でサンカノゴイが鳴いているのを聞いたことがあります。サンカノゴイのさえずりは、「ウッ、ウッ、ウッ」という前奏があって「ブフォ、ブフォ」と4、5声続けて鳴き、夜明け前などは2分間隔で鳴き続けます。この声は100~300Hzで、日本の野鳥の中ではもっとも低い声の一つです。
最初に聞いた場所をA地点とします。帰り道、直線距離で300mほど離れた所でもサンカノゴイが鳴いていました。ここをB地点とします。さらに、300m離れたC地点に、早朝にタイマー録音を設定してYAMAHA W24を置いたところ、サンカノゴイの声が入っていました。ということで、このアシ原には少なくとも3羽のサンカノゴイがいると判断いたしました。
C地点でW24でのタイマー録音、ボリューム調整、ノイズリダクションをかけています。午前4時45分頃の録音です。
「GreatBittern120326_0430.mp3」をダウンロード
後日、録音しようとB地点でサンカノゴイが鳴くのを待ち、声のした方向に向かいました。声を聞いては、方向を確認して100mほど移動していきます。昼間はサンカノゴイが鳴くのは、20~40分に1回しか鳴いてくれません。1時間かけてたどり着いたのは、なんとA地点だったのです。そして、このA地点からもさらに奥のアシ原で聞こえました。ということは、サンカノゴイが鳴いている所からB地点までは400mも離れていたことになりす。A地点とB地点では、声の大きさにそれほど差を感じなかったのです。低い声が、こんな遠くまで聞こえるとは驚きです。
日本野鳥の会が行ったシマフクロウの調査では、シマフクロウの声が1km以上離れたところで聞こえたと報告を受けています。また、アオバズクの声をたよりに近づこうと延々と歩いてもたどり着けなかった思い出やアオバトの声に近づこうとして一山越えたこともあります。かよう、低い声は遠くまで聞こえることになります。
低い音のデメリットは、もう一つあることを思い出しました。定位が定まらないのです。どこで鳴いているかわかりにくいのです。私が、最初B地点でA地点の方向で鳴いていると分からなかったのはこのせいです。
低い声で鳴く鳥たちは、フクロウ類を中心にけっこういます。夜行性の鳥が多いのは、他の鳥のさえずりがにぎやかなのを避けることができるからでしょう。また、サンカノゴイはじめヨシゴイなど、開けた環境にいる鳥も低い声で鳴きます。障害物がない環境に生息する鳥にとって、遠くまで聞こえる低い声で鳴くメリットを活用しているのでしょう。もちろん、いろいろ例外もありますが、鳴き声の音域と環境との関係を考えるといろいろ面白いことありそうです。
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