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2012年10月 8日 (月)

お宝画像-『満州鳥類原色大図鑑』の水野馨さん

 幻の図鑑『満州鳥類原色大図鑑』の著者の水野馨さんについては、意外にも身近にご親族の方がいて思わぬ貴重な情報を知ることができました。この件については、何度か拙ブログで記事にしてきました。

   今日は上機嫌-『満州鳥類原色大図鑑』を入手
  世の中、意外と狭い-満州鳥類原色大図鑑の水野馨さん

 今回、水野さんのご長男(90歳)に記事のコピーをお送りしたところ、1枚の写真を送っていただきました。なんと、水野さんの満州時代のお写真です。

Mizunokaoru

 初めて見る水野さんのお姿です。画像検索しても1枚の写真も出てきませんし、日本鳥学会誌『鳥』や日本野鳥の会『野鳥』にも、お写真は掲載されていないと思います。ご了解をえて本邦初公開いたします。
 写真は、研究室のような雰囲気の部屋に鳥の絵、書籍、そして鳥の剥製がいっしょに写っています。水野さんは白衣を着ており、おそらく大型のサギ(サンカノゴイでしょうか)の嘴の長さをモノサシで計測しています。あれだけの偉業をなされた方ですので、もっと筋骨たくましいお姿かと想像しておりましたが、学校の先生らしいインテリだったとお見受けいたしました。
 この写真から、いろいろなことがわかりました。まず、中央の大きな猛禽類の剥製は、ヒゲワシの若鳥だと思います。日本にはいない種類です。また、その手前のキジも首に白い輪が見えますのでコウライキジ、大陸産のキジです。ですので、やはり満州でのお写真の可能性大です。
 壁に掛かっている絵は、大正13年に日本鳥学会から発行された『狩猟鳥獣掛図』です。渡満のときにお持ちになったのでしょうか。それとも取り寄せたものでしょうか。いずれにしても、年代的に合います。
 さらに年代を絞りたいと画面を見たところ、壁の左にカレンダーが貼ってあるのを見つけました。このカレンダーは、アラビヤ数字でありながら縦書き、左から見るという今ではない配列です。そのため、はじめはなにかの周期律表かと思って見逃しましたが、よく見るとカレンダーです。
 カレンダーは、11月で1日が水曜日から始まっています。水野さんが満州にいらした期間は、大正14年から昭和20年です。この間、1日が水曜日で始まる11月の年を探しました。該当する年は3回あり、昭和8年、昭和14年、昭和19年となります。壁にある掛図は大正13年発行ですので、年代の決め手にはなりません。ただ『満州鳥類原色大図鑑』の発行は昭和15年ですから、もし昭和19年であればこの本が机の上に飾ってあってもよいと思います。当時、写真を撮るというのはちょっとしたイベントです。そこに大著が写っていないということは、昭和19年ではないでしょう。ということで、昭和8年か昭和14年ということになると思います。
 当時の情勢を考えると、大陸に渡り8年たらずでこれだけの資料を整えるのはたいへんだったのではないでしょうか。そうすると昭和14年が残り、ちょうど図鑑の制作に向けて資料を整理しているところではないでしょうか。
 という問いかけの手紙を、ご長男に差し上げたところ「奉天(現在の瀋陽)に赴任してからの年ですから奉天高等女学校の自室です。昭和14年です。仕事に追われてやや細っているように写っています」とのことでした。お手紙といっしょに水野さんのもう1冊の著書『満州鳥類分布目録』(昭和9年/1934年・発行)も送っていただきました。重ね重ねのお宝を頂戴し、なんとも恐縮です。重ねてお礼申し上げます。
 今回は、幸いにしてご家族の方とご連絡がとれ、情報を得ることができました。水野さん以外にも、歴史の中に埋もれている研究者がたくさんおります。先人たちのご苦労の結果、今こうして野鳥を楽しんでいる身としては、少しでもお役に立てればと思っての考証です。しかし、こうして調べるのがまた楽しくて、諸先輩にはさらなるご迷惑なことかもしれません。

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コメント

自己レスです。
山階鳥類研究所の広岡さんから、写真に写っているワシは、ヒゲワシではなくハチクマではないかという指摘をいただきました。ヒゲワシは、かなり大きいそうです。大きさをチェックしなかったミスです。お詫びして、訂正いたします。

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