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2012年11月 8日 (木)

跗蹠をなんと読む

 昨日の記事で”原記載”を”元記載”と誤変換したまま、アップしてしまうという大きなミスをしてしまいました。その私が漢字の読みついて考察するのは、はばかれますが今日は鳥の部位の読み方についての疑問です。
 鳥の身体の構造は人とは違うために、それぞれの部分を特別な呼び方をしています。嘴や翼はなじみがありますが、脚の一部を”跗蹠”と呼びます。特殊な漢字なので、コンピュータによっては表示されず?マークになっているかもしれません。足偏に付のつくり、足偏に庶のつくりの漢字2文字です。
 鳥の脚の太ももの部分はだいたい羽毛に隠れて見えません。見えるところは人の足でいえば、膝から下です。ですから、曲がっている部分はかかとに相当します。そして、この曲がった部分から脚の指の付け根まで、人で言えば足の平の部分となるために、特別な名称になったのでしょう。この跗蹠を何と読むかです。
 実は昨日、カミさんにGurneyさんの論文を訳してもらったときに「電子辞書を調べたら『ふしょ』ではなく『ふせき』になっている」との指摘。私も今まで「ふしょ」と読んでいましたし、仲間との会話でも「ふしょ」です。ときどき、「ふしょう」と言う方がいて「『ふしょ』でしょ!」と指摘することはありました。原稿を書くときには、なるべくこのような難しい言葉を使うことのないようにしています。しかし、入門書や図鑑では避けることができず、使っています。その場合、「ふしょ」とひらがなで書くようにしています。たとえば、私が監修と執筆をした『バードウォッチング入門』(1991・山と溪谷社)では「ふしょ」とひらがな表記にしています。いずれにしても「ふせき」という読み方があるとは知りませんでした。
 跗は調べて見ると”くびす”、”きびす”でかかとのこと。蹠は”足裏”ですから、かかとから足裏にかけての部分ということで、まさに鳥の足の構造から当てた漢字となります。
 おそらく跗蹠の初出は、内田清之助の『鳥學に用ゐらるゝ諸術語』(1912 動物学雑誌 No.289、p624-631)だと思います。この小論文で、鳥の各部位の英語の名称の日本語訳が確立されます。たとえば、Primariesを初列風切羽というように英語の名称に日本語の名称を当てています。多くは新称で、このときTarsusに跗蹠という漢字を当てたと思われます。なんとしてでも、日本語にしようという意気込みを感じる訳語です。ただ、この小論文にはルビがなく、読み方を聞きたくても内田さんはすでに故人。考えてみれば、今年はこの日本語訳ができて100年目です。すでに歴史の霧のなかに埋もれてしまっています。
 手元にある図鑑類を見てみると、大図鑑には跗蹠が載っているもののルビがないので読み方はわかりません。最近ものですが『世界文化生物大図鑑 鳥類』(1984・世界文化社)には「跗蹠」に「ふしょ」のルビがふってありました。ネット上でも、「ふしょ」が大多数ですが、「ふせき」もあります。
 蹠のつくりは、庶ですから「しょ」と読みたくなります。しかし、足蹠と書いて「そくせき」と読むわけですから「せき」も正しそうです。いわば、鳥類学的には「ふしょ」、国語的には「ふせき」のようなのです。私の知識では、どちらにも軍配をあげかねます。今後の課題とさせていただきます。

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