« ツミの子育てを見る-カラスの巣利用 | トップページ | ツミの子育てを見る-鳴き声 »

2013年8月21日 (水)

ツミの子育てを見る-都心への進出

  そもそも、ついこの間までツミは幻の鳥でした。私が日本鳥類保護連盟の職員だった1970年後半、環境庁(当時)から日本のワシタカ類の個体数を推定しろという無理難題を上司が請け負ってきたことがあります。もちろん、科学的な根拠のない数字など出せるわけはないので、たしか+の数でランク付けをしたと思います。たとえば、トビは+が5個、イヌワシやクマタカは1個と、野外での出会いの頻度、経験からのランクです。このとき、困ってしまったのがツミです。もちろん私は未見、山階鳥類研究所の職員も見た者はいかったと思います。『清棲図鑑』には、北アルプスや塩原と言った地名が記述されているだけ、いずれも比較的標高の高い地域で、それも戦前の記録がほとんどです。戦後の記録は、日本で初めてとなった富士の須走の営巣のみでした。もちろん+は1個、イヌワシやクマタカと同じレベルだと報告しました。
 そのツミが、1981年に埼玉県上尾市の住宅地で繁殖が確認されてから、関東各地で営巣が見られ1990年代に入ると栃木県宇都宮市では10ヶ所以上で営巣するという状態になりました。私がはじめてツミを見たのは1995年頃、日光市内の杉並木にとまる雄で、宇都宮で増加したものが流れてきたのではと想像しました。
 その後、東京都では郊外でも繁殖が報告されるようになり、当時国分寺市在住だったイラストレーター・水谷高英さんの近くの雑木林で巣作りをしていると教えてもらったのが1998年頃。この情報をもとに、私が監修をしていたNHKの番組『野鳥百景』で取材をお願いして出演をしてもらった思い出があります。
 東京郊外では、2000年代にかけて広範囲にわたって繁殖が見つかり、条件の良いところでは安定して巣作りが行われていました。水谷さんちのツミは、2000年代に入っても営巣をしていました。同時に、じわじわと都心に向けて分布を広げてきた感があります。
 その後、私がもっとも都心に近いと思ったのは月之座さんちのツミで、2007年世田谷区の公園です。結果は失敗でしたが、23区内では初だったかもしれません。私の近所では、2008年北区染井墓地に隣接する立ち入ることのできない緑地で繁殖期に見られましたが、確認はできませんでした。文献としては、2010年大田区の公園の繁殖例が報告されています(川沢祥三・2011)。また、明治神宮でのウワサもあり、ここ数年で都心への進出が顕著になったことがわかると思います。今回の公園は、山手線内側にあり、現在報告されているツミの営巣例としてはもっとも都心になると思います。
 今回、観察していて都心へ進出するツミには条件があるのではと思いました。
 まずは、カラス対策ができなくてはなりません。天敵のカラス、おもにハシブトガラスをいかに避けるかが、都心進出のカギでしょう。このツミは、執拗にカラスを追い払っていました。バードリサーチの植田睦之さんの報告を概略すると「カラスを追い払うことでツミの巣の近くでオナガが巣作りしていたが、最近追い払わなくなったのでオナガが近くで繁殖しなくなった」(http://www.bird-research.jp/1_ronbun/2005brtaikai/ueta.pdf)、おかげで「ツミの繁殖の有無を見つけるのが難しくなってしまいました」とこぼしています。この傾向は、都心では通用しなかったようです。
 この公園には、昼間はなわばりを持つハシブトガラスが10数羽。夜は近くのネグラに100羽以上が集まり、一部のカラスにとってはツミの巣はネグラ入りのコース上になります。それだけに、ツミがカラスを追いかけるシーンはときどき見られました。「グ、ガガ・・・」というハシブトガラスの怒った声が聞こえて、ツミのいることがわかることもあります。
 結果、巣の周囲はカラス立ち入り禁止となりました。対カラスのバリアは、巣を中心として50~60mの円柱状、高さはわかりませんが、おそらく木の高さの倍、同じ50~60mくらい張られている感じです。このエリア内に入ると、どこからともなくツミの雄か雌が現れ後ろから攻撃されることになります。面白いのは、ここが「カラス立ち入り禁止」になっているという情報がカラスに知れ渡っているのではないと思う節があるのです。一度ツミに攻撃されれば頭の良いカラスのこと学習にして立ち入らなくなることは理解できます。しかし、いくらなんでもこの公園のカラスすべてが、ツミに追われているとは思えません。それにもかからず、カラスが進入してくるのは1日に1回あるかないか。あたかもカラス同士で「あそこは小さいけど強い奴がいるので入らない方が良いよ」と情報が伝わっているのかのようでした。
 ところで、繁殖が終わりツミが居なくなったとたん禁止区域は解除され、カラスは出入りが解禁となり自由に飛び回われるようになりました。また、ここをなわばりにするハシブトガラスも宣言鳴きをするようになりました。
 カラスの密度の少ない郊外で繁殖するツミは、カラスを追わなくなったものの都心進出においてはカラスへの警戒心の強さが、ものをいう感じがしました。
 ところが、カラスへの攻撃がシャープの割には、人への警戒はまったくと言ってよいほどありませんでした。巣の下は公園の通路で、人が良く通ります。時には、幼稚園の団体が巣の下のベンチで休んでいきます。さらには、巣の下で草刈りが行われたことがあります。ほぼ毎日、私をはじめ仲間が双眼鏡やカメラを向けているのですが、こちらを見ることが少ないのです。ですからカメラ目線のショットは、なかなか撮れませんでした。
 日本で最も小型といえども猛禽類です。警戒心が強いというイメージがありました。オオタカの巣作りでは、かなり離れた所から観察したと聞いたことがあります。人が集まり巣を放棄したという話は複数聞いています。また、国分寺市の水谷さんちのツミは、犬を散歩させていると攻撃されたとも聞いていました。そのため、これはそうとう距離を置き、注意をして観察しなくてはと思ったのです。しかし、これは杞憂となり目も合わせてくれません。こうなると、なんだか無視されているようでちょっと寂しい思いがあります。
 巣立った幼鳥たちは、親鳥のいなくなったあと、しばらく公園に滞在していました。その間も、果敢にカラスを追いかけていました。また、私たちの近くにとまって思う存分観察させてくれました。幼鳥たちも親鳥の習性を引き継いでいるようで、都会子のツミとして生きていくことができるでしょう。
 続きます。

« ツミの子育てを見る-カラスの巣利用 | トップページ | ツミの子育てを見る-鳴き声 »

観察記録」カテゴリの記事

コメント

こんにちは

2007年の我が区のツミの番は
公園の中でも人通りの少ない林の奥で営巣を始め
毎日カラスを追うのに忙しく(よく威嚇し鳴いてました)
結果、繁殖に到らずでした。
初確認は4月27日と今回より2ヶ月近く
早かったです。

6年ぶりの今年の番は、子供達が遊ぶ
比較的人通りの多いエリアでの繁殖成功です。
近くにカラスの巣がなかったのが
幸いしていたかもしれません。
威嚇の声を聞く機会が少なかったです。

なんだかツバメみたいですね。
今後も都内でのアーバンライフを選択する
シティ派のツミ達が増えるのでしょうか。

…となるとエサとなるスズメ達にも
がんばってもらわねば…ですね。

月之座様
 ツミの情報、ありがとうございます。おかげで、こちらの進行具合を予想することができました。
 この調子で、増えればスズメは住みづらくなるでしょうね。

23区内での繁殖は、1985年に練馬区石神井公園での記録があります。繁殖成功しています。

間違えました。
1987年6月です。訂正します。

シバラボ様
 フォローありがとうございます。最近のツミ情報は、当件もそうですがクローズになっているのが多いですね。そのため、ウワサはけっこうあります。また、もはやツミの繁殖は珍しくないということから、発表されていなのかもしれませんが。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/556172/58033982

この記事へのトラックバック一覧です: ツミの子育てを見る-都心への進出:

« ツミの子育てを見る-カラスの巣利用 | トップページ | ツミの子育てを見る-鳴き声 »

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

最近のトラックバック

無料ブログはココログ