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2014年6月

2014年6月30日 (月)

チョウトンボ-芝川第一調節池

 先週は、なんやかやで埼玉県の芝川第一調節池に3回通いました。1回目は、秋に予定されている自然観察会の下見のため日本野鳥の会のT岡さんとH田さん。2回目は、夕方にタイマー録音を仕掛けに。そして3回目は録音機の回収です。とにかく、今年の梅雨は雨が多いので、その合間をぬって行きました。
 この時期は、チュウヒがいないためか、野鳥カメラマンやバードウォッチャーとは一人も会いませんでした。散歩をしている人がチラホラいるだけで、広い湿地を独り占め、貸し切りで楽しめました。去年より、オオヨシキリが東側のヨシ原で増えた感じがします。調節池の水位が高いため、水につかっているヨシ原の面積が少なくなり、あわよくばと思っていたサンカノゴイやヨシゴイには会うことができませんでした。
 この季節、芝川で面白いのはトンボですね。いろいろなトンボが飛び交っています。なかでも多いのはチョウトンボで、一ヶ所に数10匹が集まり乱舞するのは初めて見ました。写真では、たくさんのチョウトンボを捕らえることができず5匹ですが、実際はもっといました。
Tyoutonbo1406271

  おそらく数100匹のチョウトンボを見ましたが、皆飛んでいるものばかり。かろうじて1匹、とまっているものを見つけました。その美しさには、目を奪われました。飛んでいるとわからない、金属光沢の群青色や紫色がまるで宝石のように輝いていました。
Tyoutonbo1406272

2014年6月29日 (日)

『猫の鳥談義』出版記念パーティ

 今夕は、江戸家猫八師匠の新著『猫の鳥談義』(文一総合出版社)の出版記念パーティでした。
 神田の学士会館で、200人は集まったかと思う盛大な集まりとなりました。鳥関係者も多くて、ちょっと同窓会のような雰囲気もありました。私のテーブルは、安西英明さん、上田秀雄さん、大庭照代さん、岡ノ谷一夫さんといった”声”関係では錚々たるメンバー。こういう場で、旧交を温めるのはうれしいものです。
 師匠のことですから当然、物まねを披露していただきました。さらに、クラシックのピアノとのコラボや小猫さんとのかけ合いと出し物もたくさん。あっという間の2時間でした。物まねと言えば寄席芸という印象でしたが、曲の合間に鳥の声を鳴かせる、あるいは鳥の声に曲を乗せるなどすることで、広いホールでの披露が合う芸になっていると思いました。猫八さん小猫さんのさらなる活躍と展開が楽しみではあります。
 ところで『猫の鳥談義』は、師匠がバリバリのバードウォッチャーであり、鳥仲間が読めば共感できることがたくさんあると思います。ぜひご一読をお勧めいたします。
Nekohati140629

2014年6月28日 (土)

ネット写真展-バード・フォト・アーカイブス創立10周年記念

 バード・フォト・アーカイブスは、元日本野鳥の会副会長の塚本洋三さんが運営する会社です。古い写真を集め、そこから失われていった自然や野鳥たちの姿を知ってもらおうという主旨で活動をしています。
 「今度、会社を作って古い写真を集めるから」と聞いたのは、ついこの間のような気がします。そして、「10周年記念の写真展をするので写真を使って良いか」とのメールをいただき、「そうか、もう10年経つのか」と感慨無量。それにもまして、拙写真が取り上げられるとは名誉なことです。また、どこかのギャラリーでも借りての展示会かと思っていましたが、なんとネット上での公開。こんな方法もあるのですね。
 以前、デジスコ通信にバード・フォト・アーカイブスについてのコラムを投稿しています。ご参考のためにご覧いただければと思います。下記URLで。
 http://www.digisco.com/mm/dt_37/toku1.htm
 要するに、時代を超えて残る写真を撮ていますかという問いかけです。私自身、撮っているときは40年近くたって取り上げられることになろうとは思ってもみませんでした。ただ、短いレンズで皆と同じ写真を撮れなかった、へそ曲がりで撮らなかったことが、今になって役にたっていることになります。
 ネット写真展は、下記のバード・フォト・アーカイブスのURLで表紙。「ネット写真展へ」をクリックすることで見ることができます。
 http://www.bird-photo.co.jp/index.htm

2014年6月26日 (木)

濁った声で鳴くハシブトガラス-六義園

 ハシブトガラスは澄んだ声、ハシボソガラスは濁った声で鳴くというのが、定番の解説です。しかし、個性に富んだハシブトガラスのこと、濁った声で鳴くものもいます。
 本日、六義園で録音。録音機はPCM-D100。声と声の間を詰めています。ボリュームはそのまま、300Hz以下のノイズを少し軽減しています。

「crow140626_004.mp3」をダウンロード

    ハシボソガラスの深みのある濁りに比べれば、浅い感じで軽い雰囲気に聞こえる声です。ハシボソガラスを聞き慣れていれば、ちょっとおかしいかなと気がついて区別はできると思います。ただ、濁る濁らないというだけでは間違ってしまいそうな鳴き方です。
 この声で鳴くハシブトガラスがいることは、1年くらい前から気がついていました。六義園内になわばりを持ち、六義園にいることが多いカラスです。
 始めは、売店のまわりから竹林あたりでこの声をよく聞きましたが、今日は100mほど北にある梅林で鳴いていました。繁殖期が終わり、どうもなわばりを変えたようです。
 このように、ハシブトガラスはときおり個性ある声で鳴くものがいるので、個体識別ができるのが楽しいですね。

2014年6月23日 (月)

オオコノハズクは、いつから「ポスカス」と鳴かなくなったのか

 しつこくオオコノハズク・ネタが続きます。お許しください。
 『野鳥大鑑』の執筆のおり、私が鳴き声を聞いたことのない鳥の解説は、文献がたよりでした。ところが、本によって書かれていることが、違っていて困った種類がありました。そのひとつがオオコノハズクでした。
 まず今回、調べるきっかけとなったのは、S木♂さんのブログ『野原から』「距離による聴こえ方の違い、アオバズクの息継ぎ音と音程変化」のなかで、歴代の図鑑に書かれているオオコノハズクの鳴き声を並べています。ならば、さらに詳しく見てみようと思い立ちました。S木♂さん、アイディアのパクリをお許しください。
 以下、発行年代順に紹介します。著者名、発行年、タイトル、発行所、そして鳴き声の記述をそのまま列記しています。
・榎本佳樹 1938 『野鳥便覧 上巻』 日本野鳥の会大阪支部 「鳴声は頻々鳴かないので充分に研究されてゐないが、低い声でフーフー又はホーホーと鳴いたり、ガサカ、ポスカス等の声も出すようである」
・下村兼史 1938 『原色野外鳥類図譜』 三省堂 「ポスカス、ポスカス又は、ポウポウ、ポウポウと聴こえる(アオバズクのホウホウより高音である)」
・中西悟堂 1938 『野鳥ガイド』 日新書院 「低声でヴォウ、ウォウ、ウォウ、ウォウと鳴く」
・山階芳麿 1941 『日本の鳥類と其の生態 第2巻』 岩波書店  「夜間にはポッポッポッポッ・・と変化のない声で鳴く。近くでは、ポスカス、ポスカスと聞ゆる事もある。繁殖中には、キリキリ、キリキリと云う声を聞くことが多い」
・内田清之助 1949 『日本鳥類図説』 創元社 「夜間ポーッポーッポーッと無気味な声で鳴く」
・小林桂助 1956 『原色日本鳥類図鑑』 保育社(増補改訂 1969より) 「夕方から夜間にかけホッ、ホッ、ホッ、ホッとだんだん低くなる声でなくが、この声は近くではウォッ、ウォッ、ウォッと聞こえる」
・宇田川竜男 1957 『原色野鳥ハンドブック』誠文堂新光社 「ワン、ワン、ワン、ワン」
・清棲幸保 1959 『原色日本野鳥生態図鑑』  保育社 「ポスカス、ポスカスと聞こえる朗らかな声である」
・宇田川竜男 1964 『原色鳥類検索図鑑』 北隆館 「夜間にワン・ワンと鳴く」
・清棲幸保 1965 『日本鳥類大図鑑Ⅱ』 講談社 (増補改訂版 1978より) 「5月から6月ごろ夕暮れから夜間にかけてポスカス、ポスカス、またはポウ、ポウ、ポウとなき立てる。初夏にも塩原でポスカス、ポスカスまたはポーポー、ポーポーという声を聞いた」
・高野伸二、柳澤紀夫 1965 『野外観察用鳥類図鑑』 日本鳥類保護連盟 「ウォウ、ウォウ、ウォウと低い声、ホッ、ホッ、ホッとも聞こえる」
 ※柳澤紀夫さんが解説文を担当。『鳥630図鑑』(1988)も同様の記述。
・高野伸二 1980 『野鳥識別ハンドブック』日本野鳥の会(改訂版 1983より)  「鳴き声についてはいろいろな記述があるが、私はポッポッポッまたはホッホッホッとアオバズクより低い声で連続して鳴くのを聞いたことがある。キュリーという声も出す」
・高野伸二 1982 『フィールドガイド日本の野鳥』 日本野鳥の会 「繁殖期には、ウォッウォッという声やポッポッポッポッ…という連続音を出す。ミャオキューリンというネコのような声も出す」

 いかかでしょうか。これらを読んで、オオコノハズクの典型的な鳴き声を集約することができるでしょうか。
 ちなみに、古典的大図鑑である内田清之助の『日本鳥類図説』(1915・警醒社書房)や黒田長禮の『鳥類原色大図説第二巻』(1934年・修教社書院)には、鳴き声は書かれていません。加えて、鳥の声について書かれた川村多実二の『鳥の歌の科学』(1947・臼井書房)にも記述はありませんでした。まだ未見の文献が多数ありますが、オオコノハズクの鳴き声が明記されるのは、1938年の『野鳥便覧』と『原色野外鳥類図譜』以降となります。日本野鳥の会が創立されて4年目、剥製主義の分類から野外で観察をする風潮が出てきた時代と符合すのは興味深いことです。
 『野鳥便覧』は、初めてのオオコノハズクの鳴き声の記述にかかわらず、書かれている文章を読むと「出すようである」と、伝聞情報となっています。榎本さんは、聞いていなかったのです。また、『原色野外鳥類図譜』では「アオバズクより高音」、別ページでは「アオバズクより高調」と書かれており、下村さんも聞いていなかったと思います。
 聞いたとはっきり書いているのは、清棲さんと高野さんしかいません。なお、悟堂さんは飼育していたので鳴き声を直に聞いているはずですから、記述は正しいでしょう。また、kochanさんが落札した宇田川さんの写真コレクションのなかにカゴのなかにオオコノハズクがいる写真があり、宇田川さん独りが「ワンワン」と書いているいることからも雌を飼育していて、その声を聞いた可能性があります。
 低い声とか小さな声という形容詞が付かない限り、アオバズクの一声鳴きの誤認ではないかと疑ってしまいます。
 ところで、典型的な鳴き声を集約できないことのひとつが「ポスカス」という声です。山階さんは「ポッポッポッポッ(中略)、近くではポスカス」、清棲さんも「ポスカス、またはポウ」と言っているので、同じ声を別表記していると理解できます。ただ、今まで聞いたり録音したオオコノハズクと思われる声のなかに「ポスカス」と思われる声はありません。また、あの低くて声量の少ない木魚鳴きが「ポスカス」にはとうてい聞こると思えません。今まで夜の録音に「ポスカス」と表現できるような声が入った事はありませんので、何を誤認したのかもわかりません。強いて言えば、三宅島のオオコノハズクと声と言われいているものの鳴き声は「キャンキャン」と聞こえるので、聞きようによっては「ポスカス」と聞こえないこともありません。
 いずれにしても、「ポスカス」は高野さん以降、書かれることはなくなります。最近、多数の写真図鑑が発行されていますが、少なくとも私の蔵書のなかの図鑑では「ポスカスと鳴く」と書かれたものはありませんでした。
 『野鳥大鑑』執筆のおりも、蒲谷鶴彦先生も「このポスカスという声は聞いたことがない、聞いてみたいね」と会話したことを思い出しました。蒲谷先生と朋友であった高野さんは、『フィールドガイド』の執筆のおり、鳴き声については蒲谷先生のアドバイスを受けています。その蒲谷先生は、1976年に新潟県佐渡島で繁殖しているオオコノハズクの録音に成功しており、その音源をもとにアドバイスをした可能性が高く、それに準じた文言になったのだと思います。
 また、拙ブログで紹介した崎川範行さんの飼育記録が発表されたのは、1965年頃(飼育開始1957年+6年生存=1963年+α)ですから、それ以降はこの報告を参考にしている可能性があります。崎川さんの記録には、「ポスカス」はなかったのですから「ポスカスと鳴く」と書くことはなくなったのかもしれません。

2014年6月22日 (日)

日本で初めてのオオコノハズクの録音-「ミミズクのポウ助」から

 『全集日本野鳥記1』(1985・講談社)を入手して、崎川範行さんのオオコノハズクの飼育記録などをていねいに読むと、いろいろ面白いことがわかりました。たとえば、オオコノハズクを飼うことができたのは、アメリカのゼネラル・モーター製の電気冷蔵庫が20年前からあったおかげと書いています。餌にしていた生肉やソーセージの保存することができたからです。戦前から電気冷蔵庫がある家があったのですね。崎川家が、かなり裕福であったことがわかります。
 報告のなかで、2回テレビの取材を受け視聴しようとしています。飼い始めた1957年はまだTVが一般家庭に普及していない頃で、1959年の皇太子のご成婚や1964年の東京オリンピックを契機にTVが爆発的に普及し始めます。飼育後期が、これと重なりますが、やはり一般家庭ではまだTVが珍しかった時代です。
 いずれも1960年代の時代を彷彿させ、私の世代には懐かしいことがらです。今の人には映画『三丁目の夕日』の世界といえば、想像していただけるでしょうか。
 それにもまして、中西悟堂からは「オオコノハズクはどこにでもいくらでもいる鳥だとのこと。東京都内でも珍しく何ともない。ただ形も小さく、声も低いので人目に付かないまでのこと」だと言われます。オオコノハズクも、サンコウチョウ、サンショウクイ、コサメビタキと言ったかつては多かったけれど激減した身近な鳥のひとつだったことがわかります。武蔵野の雑木林を代表する里山の鳥だったのです。今では、オオコノハズクの繁殖地はコノハズクの領域と同じとなり、出会いはきわめて少なくなりました。当時は、里山はオオコノハズク、奥山にはコノハズクと生息環境をわかち合っていたことになります。
 全集に収録されている「私の鳥類学」には、崎川さんがどうやって鳥の声を学んだか書かれています。当時、野鳥のレコードは2、3点しか発売されていません。そのため、野鳥の声を覚えるために、カスミ網で捕らえられた野鳥を小鳥屋から買ってきて、鳴かせるという方法をとります。そして、鳴き声を覚えると放してやるのです。今となっては物議をかもす行為ですが、お金と手間のかかる勉強法です。
 ということで、崎川さんはこのオオコノハズクの鳴き声を録音しようと何度か試みます。
 当時のレコーダーは、オープンリールしかありません。蒲谷鶴彦先生は、この時代はソニーのEM-1というゼンマイ式のレコーダーを使っています。ソニーが真空管方式のTC-211を発売するのは、1960年代に入ってからです。おそらく、冷蔵庫もアメリカ製を使っていた崎川さんのことですから、電源が取れる家のなか使っているのでアメリカ製のウエブスターあたりではないかと推測いたします。
  実は、ラジオの取材やTVの取材では、思うようにオオコノハズクが鳴いてくれず、苦労をします。ところが、偶然にも録音成功は成功、そのいきさつです。
「私が不精をして、原稿を書く代わりにテープレコーダーに吹き込んでいたときのことだった。たまたまポウ助の傍で録音をしていたのだか、その時突然彼がポッ、ポッと鳩時計を鳴いたようである。私は咄嗟に喋るのを止めたから、彼の声だけがうまくテープに入ることになった。このテープは日本にたった一つのオオコノハズクの声の録音であろうと、私は自慢しているのである。」たしかに、当時の日本で唯一、最初の録音といえるでしょう。
 そして、もう一度、録音のチャンスが訪れます。ただ鳴いてしばらくして、このオオコノハズクはお亡くなりになります。死の直前の一鳴きを録音したことになります。
 今でもこの音源は、崎川家に残っているのでしょうか。ぜひ聞いてみたいものです。 

2014年6月21日 (土)

「ミミズクのポウ助」-オオコノハズクの声の確実な記録

 本州のオオコノハズクがどのように鳴くのか、資料がなくて苦慮しておりました。だいぶ前に録音仲間のE村さんから「オオコノハズクの飼育記録に鳴き声のことも書いてある」と、コピーをいただきました。崎川範行さんの「オオコノハズク奇談」と「ミミズクのポウ助」です。これは、下村兼二、堀内讃位、崎川範行、鴨川誠・著『全集日本野鳥記1』(1985・講談社)に収録されているものでした。今回、オリジナルを入手することができましたので紹介したいと思います。この全集には、崎川さんの文章が12編(36ページ)収録されていますが、このうちの2編20ページ分がオオコノハズクの飼育記録です。
 なお、崎川範行さん(1909-2006)は、東京工業大教授、のちに名誉教授。専門は燃料化学のほか、趣味の宝石、焼き物なども研究でも知られています。また、日本野鳥の会の古くからの会員で中西悟堂とも親交があり、『野鳥』誌にたびたび投稿しています。
 この記録は、藤原英司さんの解説によると1957(昭和32)年頃のこと。オオコノハズクは、大学の煙突のなかに入っていたのを学生に捕らえられたものだそうで、ポウ助と名付けて6年間死ぬまで飼育しています。当時も東京工業大学は、東京都目黒区大岡山にあり、そこで捕獲されたことになります。捕獲されたのは、”一昨年の秋”と書かれていますので、越冬していたものでしょう。
 たとえば、中西悟堂の『野鳥と共に』(1935・巣林書房)にも、オオコノハズクの飼育記録が収録されていますが、鳴き声についての記述はありません。悟堂は彼女と言っているので雌だったのかもしれませんが、その根拠も書かれておらず、残念な記録となっています。その点、崎川さんは科学者であるだけに、たいへん緻密で客観的な記述がされていて、とても参考になりました。では、鳴き声についての部分を抜き出して紹介します。

『オオコノハズク奇談』(注:飼育2年目の記録)
「見かけによらぬ可愛らしい声で、ポッポッポッポッ、というのである。ちょうどあの鳩時計の調子で、ただ、次第に低く下げてゆくのである。(中略)そのあとに続けて、ホーウ、ホーウと呼ぶ」
「昼間眠いときに、低い声でオギャー、オギャーと赤ん坊の泣き声のようなのを繰り返している。」
「そのほか、竹の管を吹いたような声をだすことがある。これは、恐怖の時の叫びであり、高音でポーッと昔の汽車のような声をだすのは甘えているしるしである」
「突然、人影が現れたような時は、キキキッと小さいながら鋭い声を出す。」
「威嚇は嘴をパチパチ鳴らして、フウ、フウという呼気音をだす。」
「だいたいにおいて無口である。例のポッポッポッもめったには鳴かない。」

『ミミズクのポウ助』 (注:飼育6年目、死亡後の記録)
「部屋に子供たちが集まって賑やかなときは、楽しそうに低い声でホーウ、ホーウと繰り返して鳴いている。」
「誰もいない時に突然ドアをあけて部屋にはいると、小声でキ キ キ キッと叫ぶ。(中略)中西悟堂氏はそれを嬉しい時の声ではないかと言われる。悟堂氏のところのオオコノハズクは餌をもらった時、この声を出すそうだ。」
「きげんの良いときにはコロコロッという声をだすことがある。」
「例の低声のホーウ、ホーウがその本来の歌なのだと思う。アオバズクやフクロウように大きな声をださいので人に知られていないのだろう。」
「1日1度か2度ポッポッポッポウと鳩時計そっくりの声をだす。(中略)オオコノハズクの囀りだと思っている。」

 まず、”鳩時計のような声”の「ポッポッポッポウ」は、拙ブログでは木魚鳴きとしているさえずりと思われる声でよろしいかと思います。低い声で、大きな声でないと書かれているので合致します。また、あまり鳴かないのは飼育下で雌の存在という刺激がない、あるいは呼応する他の雄の声が聞こえないためだったのでしょう。この声は、テリトリーソングではないかと推測しています。
 「ホーウ、ホーウ」は、『野鳥大鑑』に収録されている音源にもあり、私が行徳野鳥観察舎で録音できた「プオー」という声に相当するものだと思います。蒲谷先生は、雄と雌が巣のそばで鳴き交わしていたときの声と書いています。この声は、ラブソングの可能性があります。
 「キキキッ」「キ キ キ キッ」は、行徳野鳥観察舎と野外でも録音できている声で、崎川さんは、はじめは警戒と思ったが嬉しいときの声であった言っています。『野鳥大鑑』に収録されている音源も私の行徳野鳥観察舎での録音でも「プオ-」といっしょに「キュリリリ」もあり、ラブソングの合間に喜びを表しているのではと思います。「コロコロッ」もこれに近い声なので、同じ意味でしょう。
 ”赤ん坊のような”「オギャー、オギャー」という声は、『野鳥大鑑』に収録されている2番目の地鳴きとされている声に相当すると思われ、存在の確認をするための声だと思います。
 崎川さんの記録で、今までオオコノハズクの声であろうと思われながら書かれていないのは、イヌのような声の「ワ、ファファファ」とネコのような声の「ミュー、ミュー」です。これに相当する声の記述はありません。崎川さんが飼育していたのは、さえずりをしているので雄。となると、書かれていない声は雌特有の声なのかもしれません。
 これらを元に、今後の野外での録音、あるいは飼育下での記録から、オオコノハズクの鳴き声を解明するヒントになればと思います。
 E村さんからコピーをいただいたお陰で、面白いことがわかりました。お礼申し上げます。

2014年6月17日 (火)

阿世潟自然観察会-日光

 日曜日は、日光野鳥研究会の阿世潟の自然観察会でした。中禅寺湖の南岸にある歌が浜から八丁出島までを往復しました。ワールドカップの日本初戦で、皆TVにかじり付き空いていると思ったのですが、梅雨の晴れ間の良い天気に誘われてか、大きな駐車場は満杯でした。なんとか車をとめることができました。
 この季節は、エゾハルゼミの声がにぎやかです。ただ、この日は歩いていても寒いくらいで、非常用に持って来た雨具を着てしのぎました。おかげで、セミの声は静かでした。そのため、キビタキのさえずりを楽しみ、シジュウカラやゴジュウカラの親子の群れなどを観察することができました。
 このコースは、アップダウンがほとんどない湖畔の道です。対岸にそびえ立つ男体山を見ながらの歩くのですから、とても快適です。終点の湖畔は、誰もいないプライベートビーチのようで、そこで食べるお弁当は何を食べても美味しく感じると思います。
 ただ、山側の林床はシカの食害により、ほとんど植生がないのが難点です。おかげで藪を好むウグイスのさえずりは、1ヶ所で聞こえただけでした。「足尾で増えたシカが、日光エリアに侵入して来た最初の場所だ」とE村さんが教えてくれました。今やこの状況が、日光全体に広がっていることになります。
Azegata140615

2014年6月16日 (月)

ヨタカを楽しむ-日光

 週末から今日まで、日光でした。
 土曜日の夜は、再度オオコノハズクが鳴いているのを確認をするか、ヨタカの声を録音しに行くか迷いました。同じダム湖なのですが、場所的にはオオコノハズクは沢沿い、ヨタカはダムサイトと距離にして1kmほどポイントがズレるのです。そのため、どちらか一つに決めなくてはなりません。
 A部♂さんと相談の結果、もうオオコノハズクは鳴いていないだろう、今ヨタカの最盛期なのでヨタカを聞こうということになりました。A部♂さんの話では『何羽ものヨタカが乱舞し鳴き合い、「キョキョキョ・・・」という声だけでなくいろいろな声を出すので面白い』とのことでした。
 先に、私とA部♂さんが夕暮れのダム湖に到着。戦場ヶ原に行っていたA部♀さん、K久保さん、月之座さん、義弟といういつものメンバーも遅れて到着して、暗くなるのを待ちます。今日は満月に近いので、晴れれば乱舞するヨタカの姿を見ることができるかもしれないと期待しましたが、あいにくの曇り。雲の合間から、星空が見える程度です。梅雨時ですから、雨でないだけでもましです。この季節としては、風も弱く最高のコンディションと言えるでしょう。
 日が沈むと遠くでコノハズクが鳴き、ヨタカも鳴き始めました。ヨタカの声は、少なくとも3羽が鳴き合い、あちこちに移動しています。ときどき「ポア、ポア」という声も聞こえます。この声の後、連続して「キョキョキョ・・・」が始まりますから、雄のさえずりの前奏のようです。
 残念なことに、いずれも遠くて録音にはなりません。ただ、一度私たちのようすを見るかのように1羽が私の頭の1mくらい上を飛んで行きました。この時は、羽音はせず、ただ黒い影が過ぎっていった感じです。そして、そのあと近くで鳴いてくれました。PCM-D100で録音。ボリュームはそのまま。1,000Hz以下のノイズの軽減、軽くノイズリダクションをかけています。

「grey_nightjar140614.mp3」をダウンロード

 録音できたのは1羽の声ですが、これ以外にも3羽が鳴いていたのは確実です。また、声は盛んに移動をするので、とまって鳴いては移動をして鳴く、あるいは飛びながら鳴いていることがわかります。
 ヨタカの求愛行動について、詳しい情報を見つけられませんでした。ただ、この夜の声の感じから、複数の雄が鳴き合い競っている印象があります。オオジシギやエリマキシギのように雄が集まってディスプレイをして、雌に見せつけているような印象がありました。
 夜の鳥の生態は、わからないことばかりです。それだけに、発見も多そうと改めて実感した夜でした。
 A部♂さん、毎度のことながらありがとうございました。

2014年6月14日 (土)

デジスコ通信に投稿しました-巣や雛の写真

 鳥の図鑑は、かつてはイラスト、今では写真での表現が全盛となっています。初期の写真図鑑は、巣や雛の写真であふれています。今、当時の写真図鑑を見ると、かなりやばい感じのする写真もあります。
 巣や雛の写真を封印し、鳥にとって重要な繁殖の姿を覆い隠すのはあまり良いことでありません。しかし、鳥にとって重要な繁殖に影響を与えることを考えると、使用しないというのが、私や日本野鳥の会のスタンスです。
 野鳥写真が撮影されている点数や発表されている点数が、爆発的に増えているので、単純に比較はできませんが、思いの他、巣や雛の写真が目に付かない印象があります。という話を『デジスコ通信』のコラムに投稿いたしました。
 下記のURLで読むことができます。
 http://www.digisco.com/mm/dt_79/toku1.htm

2014年6月12日 (木)

図鑑の図鑑-『図鑑大好き!: あなたの散歩を10 倍楽しくする図鑑の話』のご紹介

 書棚に図鑑がいっぱい並んでいる友人がいます。鳥ばかりではなく、植物から昆虫までさまざまな図鑑です。名前のわからない生き物に出会うと、お宅にうかがって図鑑を引っ張り出しては調べる作業をさせてもらいます。調べるときのわくわく感、名前が解ったときの爽快さがあります。もちろん、解らないときは落胆もありますが、図鑑で調べる作業は楽しいものです。
 千葉県立中央博物館では、7月中旬より図鑑に関する企画展を開催するとのこと。それに伴い図鑑の本が出版されました。私も取材を受け、本日その本が届きました。さまざまな生き物図鑑、古典的な図鑑から最新の図鑑、そして現場の学芸員の方々実際に活用している図鑑の紹介、マイ図鑑の作り方まで解説されています。いわば、図鑑の図鑑です。
 なお私は、野外で鳥の名前がわかるフィールドガイドの魁、ピーターソン図鑑のページで登場いたします。
Zukan140612

 展示会の概要は下記。
 ■企画展「図鑑大好き!〜ダーウィンからはじまる100の図鑑の話〜」
  第1企画展示室を中心に、本館にて開催
  開催日時:平成26年7月19日(土) 〜 10月13日(月祝)

『図鑑大好き!: あなたの散歩を10 倍楽しくする図鑑の話』アマゾンのURL
http://www.amazon.co.jp/%E5%9B%B3%E9%91%91%E5%A4%A7%E5%A5%BD%E3%81%8D-%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AE%E6%95%A3%E6%AD%A9%E3%82%9210-%E5%80%8D%E6%A5%BD%E3%81%97%E3%81%8F%E3%81%99%E3%82%8B%E5%9B%B3%E9%91%91%E3%81%AE%E8%A9%B1-%E5%8D%83%E8%91%89%E7%9C%8C%E7%AB%8B%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E5%8D%9A%E7%89%A9%E9%A4%A8/dp/477912011X

千葉県立中央博物館のURL
http://www2.chiba-muse.or.jp/?page_id=57

2014年6月11日 (水)

『朝の小鳥』スタジオ収録-山形盆地の鳥

 今日は、文化放送にて『朝の小鳥』のスタジオ収録でした。
 山形県の東部に広がる山形盆地には、このところ毎年通っています。田んぼや果樹園が広がるなかにある集落には必ず神社やお寺があって、その鎮守の森が野鳥たちのすみかとなっています。いわば、神や仏に守られている野鳥たちです。そうした野鳥たちを番組でご紹介いたします。
 ところで、行きの山手線のなかで、運行情報を見たら秋田新幹線「こまち」が、クマと衝突して遅れが出ているとの情報。クマはかわいそうですが、なんだかのどかな東北を思い浮かべてしまいました。
 スタジオ収録は順調に終わって、帰りの山手線。今度の運行情報では、山形新幹線「つばさ」がカモシカとぶつかって遅れが出ているとのこと。今日は、獣にとって受難の日となりました。そういえば一昨年、山形行きのときにカミさんが新幹線の線路際に「カモシカがいるが見えた」と言っていたことを思い出しました。豊かな自然だけに、あつれきも絶えないことになります。
7月の放送予定
7月6日 トラフズク雛
   13日 カッコウ
   20日 ホオジロ
    27 日 フクロウ

2014年6月 8日 (日)

日本野鳥の会奥多摩支部スタッフ勉強会-奥日光

 週末は、どこも雨でしたね。にも関わらず奥日光にて、日本野鳥の会奥多摩支部のスタッフの皆さんの勉強会でした。私は、戦場ヶ原をご案内し「野鳥の鳴き声の魅力と録音」をテーマに講演を行いました。
 この日に決めたのは、梅雨入り前で天気が良いはず。ズミが満開で花のトンネルのなかでバードウォッチングを楽しめるはず。ノビタキ、ホオアカ、オオジシギなど草原の野鳥たちが迎えてくれ、戦場ヶ原がもっとも良い季節のはず。ただし、エゾハルゼミがうるさいかもと思っていました。
 ところが、前日に関東地方は梅雨入りし、土曜日の昼に赤沼駐車場に着いたときは雨でした。早めのお弁当を食べて時間をつぶしていると、雨が止みさっそく戦場ヶ原を歩きました。ほぼスケジュールどおり歩いて、帰路につこうとすると雨が降り出してきました。なんと運の良いことでしょう。今回のスケジュールは、万事この調子で、雨にはあったものの雨の止み間もあり、その間に中身の濃いバードウォッチングを楽しむことができました。
 ズミの花のトンネルを歩きました。
Zumi140608

 雨の中のノビタキ。
Stonechat140608

 ズミの花にとまるニュウナイスズメ。
Russet_sparrow140608

 雨模様だと良いことがたくさんあることがわかりました。まず人が少ないことです。貸し切り状態の時もあって、野鳥を見放題でした。雨が止んで暖かくなったことでわかったのですが、エゾハルゼミの大合唱がうるさいのです。しかし、ほとんどの時間で静かでした。そして、この季節は雨にもかかわらず野鳥たちは忙しく活動は活発、見られるであろう野鳥たちはだいたい見ることができました。
 日本野鳥の会奥多摩支部の皆さん、お疲れさまでした。お陰さまで、私はいつもは行かないもっとも良い季節の戦場ヶ原を楽しむことができました。

2014年6月 4日 (水)

サンコウチョウが通って行った

 だいぶ前の日のことです。雨上がりの朝、六義園を散歩しました。しっとりと湿気を含んだ森は、この季節ならではの六義園の風情です。
 遠くで、かすかにサンコウチョウのさえずりが聞こえました。空耳かと思い、しばらくじっとしていたのですが聞こえません。立ち去ろうとすると1声、聞こえました。間違いありません。すぐに、いる方向に録音機を仕掛けて、じっと待ちます。
 姿が見えないかウロウロしていると、常連さんたちも集まってきて皆で探しました。
 良く茂った樹冠部にいるので、姿がなかなか見えません。また、さえずりは20分に1回程度しか鳴かず、声をたよりに見つけることもできません。やっと、見えたのは1時間後くらいたってからです。雄であることは間違いないのですが、尾は短めでした。
 録音されたさえずりを聞いてみると、今まで録音したことのあるサンコウチョウに比べて、力もなくおぼつかない感じです。それに、「ギュッ、ギュッ」という濁った声の前奏を何度も鳴くのがふつうですが、鳴かないか1回くらいです。尾の長さと鳴き声の複雑が、関係があるのでしょうか。この課題を解明するには、出会えない鳥だけにサンプルを集めるのはたいへんそうです。
  PCM-D100で録音、さえずりとさえずりの間隔を詰めています。ボリュームの増幅、低音ノイズの軽減、ノイズリダクションをかけています。

「Paradise-Flycatcher140528_006.mp3」をダウンロード

 ところで、私がとった過去の六義園の記録では、1984~1994年の11年間はサンコウチョウとの出会いはわずかに2例にすぎません。それも秋の渡りのシーズンのみで、いずれも雌でした。印象としては、5年間に1度しか会えない鳥でした。しかし、2000年代に入るとほぼ毎年。それも春の渡りのときに、さえずりとともに記録されるようになりました。
 サンコウチョウが増えたのか、それとも観察者が増えて見つかるようになったのか、たぶん目が増えたせいだと思います。それにしても、都心の公園でサンコウチョウのさえずりが聞かれるなんて、渡りの季節ならではのハプニングです。

2014年6月 3日 (火)

一枚の羽から-CSI駒込

 昨日は、月2回行っている六義園のセンサス調査でした。K久保さん、K藤♂さんが同行してくれました。スズメとシジュウカラの雛のおかげで、鳥が多いという印象のあるデータがとれました。
 ところでセンサスコースを歩いていると、1枚の羽が落ちていました。
Crowfeather140602

 ハシブトガラスの羽だと思います。それも鞘がかなり残っているので、雛の羽です。さらに、巣立ったものにはこのような鞘が残っていることはありませんので、巣の中にいた雛のものだと思います。
 さらに、よく見ると鞘の一部に血痕のようなものが付いています。まだ、血は赤いのでそれほど犯行時刻から経過しているとは思えません。昨夜から早朝の出来事だと思います。巣の中の雛の羽、血痕が付いていると言うことで、巣の中で何者かに襲われたことになります。巣の真下ではなく、巣があると思われる場所から数10mは離れている順路ですから、運ばれて食べられた残骸の一部でしょう。
 では、犯人はだれでしょうか。同じハシブトガラスがまず考えられます。さらに、最近増えたハクビシンも怪しいです。もし、カラスがカラスを襲った場合、朝明るくなってからでしょうからそうとうの騒ぎとなり、六義園全体が騒然とするはずです。この日の朝はいつもどおりでした。夜行性のハクビシンが、そっと木に登り巣を襲った場合、夜ですから親鳥は気がつかず騒ぎにはならないでしょう。そう思うと、犯人はハクビシンの可能性が大きいですね。
 今夕、この羽が落ちていた近くで、地面に降りている幼鳥が1羽いました。親鳥2羽が心配そうに見守っていました。もちろん、幼鳥には鞘はありません。もしかしたら、早く生まれた雛のほうは無事に巣立つことができたのかもしれません。
 悲喜こもごも、ハシブトガラスたちの都会での生存競争は厳しいものがあることになります。
 

2014年6月 1日 (日)

Mさんの録音ー日光

 目の不自由なMさんといっしょにいると、いろいろ勉強になります。今回の日光では、彼の録音する姿に感動いたしました。小さな三脚にオリンパスLS-100を付けて、音声ガイドを確認して、すぐ前に置きます。その後は、微動だもしません。じっと、音を聞いています。鳥が鳴きやむか遠くへ行くまで、そのままの姿勢なのです。ですから、オオルリが20分間さえずっていたときは、20分間そのままの姿勢でした。
 そのオオルリのさえずりをさっそくご自身のWebサイトにアップしています。拙ブログの左にあるリンク「ようこそ佑太のページへ」へ行き、「野鳥の声」のなかの「オオルリの声」と「しかの声」が、その時に録音したものです。
 私は録音機を置いたら自分の立てる音が入らないように、そっと離れて待ちます。その間は、他の鳥がいないかまわりを見回したりして動きます。考えてみれば、彼は録音機から離れてしまえば見つけられないのですから、手の届く範囲に置かなくてはならないのです。そうすると、必然的に身じろぎでもすれば、その音が入ってしまうので動けないのです。その姿は、自然のなかで座禅を組んでいる修行僧のようでもあります。
 また、この姿はどこかで見たことがあると思いました。野鳥録音の大家・蒲谷鶴彦先生が録音をしていた姿と同じなのです。蒲谷先生の時代は、録音機はオープンリールですから「ガサッ」と音が入ったからと言って簡単にはカットできません(Mさんもマウスを使う細かい編集は、できませんので同じです)。また、テープやバッテリーの残りを絶えずチェックしていないとなりません。そのため、音を立てずに録音機のそばにいなくてはならないのです。その習慣は、DATの時代になっても変わりませんでした。傍らに録音機とパラボラにセットしたマイクを置いて、手を添えてじっとされていました。
 ある人が「先生が録音をしている方へ、鳥が寄っていく」と言われました。たしかに、双眼鏡を振り回しているバードウォッチャーを避けて、じっとしている先生の方へ鳥が飛んでいく理由は納得できます。自然に溶け込むことで、野鳥が近づきより良い音で録音ができます。Mさんの録音の仕方を見て、いかに自然と一体となるかが野鳥録音のコツのひとつであることに改めて気がつきました。
 きっと、いつかMさんの身体に小鳥がとまってさえずることがあると思います。

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