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2014年6月23日 (月)

オオコノハズクは、いつから「ポスカス」と鳴かなくなったのか

 しつこくオオコノハズク・ネタが続きます。お許しください。
 『野鳥大鑑』の執筆のおり、私が鳴き声を聞いたことのない鳥の解説は、文献がたよりでした。ところが、本によって書かれていることが、違っていて困った種類がありました。そのひとつがオオコノハズクでした。
 まず今回、調べるきっかけとなったのは、S木♂さんのブログ『野原から』「距離による聴こえ方の違い、アオバズクの息継ぎ音と音程変化」のなかで、歴代の図鑑に書かれているオオコノハズクの鳴き声を並べています。ならば、さらに詳しく見てみようと思い立ちました。S木♂さん、アイディアのパクリをお許しください。
 以下、発行年代順に紹介します。著者名、発行年、タイトル、発行所、そして鳴き声の記述をそのまま列記しています。
・榎本佳樹 1938 『野鳥便覧 上巻』 日本野鳥の会大阪支部 「鳴声は頻々鳴かないので充分に研究されてゐないが、低い声でフーフー又はホーホーと鳴いたり、ガサカ、ポスカス等の声も出すようである」
・下村兼史 1938 『原色野外鳥類図譜』 三省堂 「ポスカス、ポスカス又は、ポウポウ、ポウポウと聴こえる(アオバズクのホウホウより高音である)」
・中西悟堂 1938 『野鳥ガイド』 日新書院 「低声でヴォウ、ウォウ、ウォウ、ウォウと鳴く」
・山階芳麿 1941 『日本の鳥類と其の生態 第2巻』 岩波書店  「夜間にはポッポッポッポッ・・と変化のない声で鳴く。近くでは、ポスカス、ポスカスと聞ゆる事もある。繁殖中には、キリキリ、キリキリと云う声を聞くことが多い」
・内田清之助 1949 『日本鳥類図説』 創元社 「夜間ポーッポーッポーッと無気味な声で鳴く」
・小林桂助 1956 『原色日本鳥類図鑑』 保育社(増補改訂 1969より) 「夕方から夜間にかけホッ、ホッ、ホッ、ホッとだんだん低くなる声でなくが、この声は近くではウォッ、ウォッ、ウォッと聞こえる」
・宇田川竜男 1957 『原色野鳥ハンドブック』誠文堂新光社 「ワン、ワン、ワン、ワン」
・清棲幸保 1959 『原色日本野鳥生態図鑑』  保育社 「ポスカス、ポスカスと聞こえる朗らかな声である」
・宇田川竜男 1964 『原色鳥類検索図鑑』 北隆館 「夜間にワン・ワンと鳴く」
・清棲幸保 1965 『日本鳥類大図鑑Ⅱ』 講談社 (増補改訂版 1978より) 「5月から6月ごろ夕暮れから夜間にかけてポスカス、ポスカス、またはポウ、ポウ、ポウとなき立てる。初夏にも塩原でポスカス、ポスカスまたはポーポー、ポーポーという声を聞いた」
・高野伸二、柳澤紀夫 1965 『野外観察用鳥類図鑑』 日本鳥類保護連盟 「ウォウ、ウォウ、ウォウと低い声、ホッ、ホッ、ホッとも聞こえる」
 ※柳澤紀夫さんが解説文を担当。『鳥630図鑑』(1988)も同様の記述。
・高野伸二 1980 『野鳥識別ハンドブック』日本野鳥の会(改訂版 1983より)  「鳴き声についてはいろいろな記述があるが、私はポッポッポッまたはホッホッホッとアオバズクより低い声で連続して鳴くのを聞いたことがある。キュリーという声も出す」
・高野伸二 1982 『フィールドガイド日本の野鳥』 日本野鳥の会 「繁殖期には、ウォッウォッという声やポッポッポッポッ…という連続音を出す。ミャオキューリンというネコのような声も出す」

 いかかでしょうか。これらを読んで、オオコノハズクの典型的な鳴き声を集約することができるでしょうか。
 ちなみに、古典的大図鑑である内田清之助の『日本鳥類図説』(1915・警醒社書房)や黒田長禮の『鳥類原色大図説第二巻』(1934年・修教社書院)には、鳴き声は書かれていません。加えて、鳥の声について書かれた川村多実二の『鳥の歌の科学』(1947・臼井書房)にも記述はありませんでした。まだ未見の文献が多数ありますが、オオコノハズクの鳴き声が明記されるのは、1938年の『野鳥便覧』と『原色野外鳥類図譜』以降となります。日本野鳥の会が創立されて4年目、剥製主義の分類から野外で観察をする風潮が出てきた時代と符合すのは興味深いことです。
 『野鳥便覧』は、初めてのオオコノハズクの鳴き声の記述にかかわらず、書かれている文章を読むと「出すようである」と、伝聞情報となっています。榎本さんは、聞いていなかったのです。また、『原色野外鳥類図譜』では「アオバズクより高音」、別ページでは「アオバズクより高調」と書かれており、下村さんも聞いていなかったと思います。
 聞いたとはっきり書いているのは、清棲さんと高野さんしかいません。なお、悟堂さんは飼育していたので鳴き声を直に聞いているはずですから、記述は正しいでしょう。また、kochanさんが落札した宇田川さんの写真コレクションのなかにカゴのなかにオオコノハズクがいる写真があり、宇田川さん独りが「ワンワン」と書いているいることからも雌を飼育していて、その声を聞いた可能性があります。
 低い声とか小さな声という形容詞が付かない限り、アオバズクの一声鳴きの誤認ではないかと疑ってしまいます。
 ところで、典型的な鳴き声を集約できないことのひとつが「ポスカス」という声です。山階さんは「ポッポッポッポッ(中略)、近くではポスカス」、清棲さんも「ポスカス、またはポウ」と言っているので、同じ声を別表記していると理解できます。ただ、今まで聞いたり録音したオオコノハズクと思われる声のなかに「ポスカス」と思われる声はありません。また、あの低くて声量の少ない木魚鳴きが「ポスカス」にはとうてい聞こると思えません。今まで夜の録音に「ポスカス」と表現できるような声が入った事はありませんので、何を誤認したのかもわかりません。強いて言えば、三宅島のオオコノハズクと声と言われいているものの鳴き声は「キャンキャン」と聞こえるので、聞きようによっては「ポスカス」と聞こえないこともありません。
 いずれにしても、「ポスカス」は高野さん以降、書かれることはなくなります。最近、多数の写真図鑑が発行されていますが、少なくとも私の蔵書のなかの図鑑では「ポスカスと鳴く」と書かれたものはありませんでした。
 『野鳥大鑑』執筆のおりも、蒲谷鶴彦先生も「このポスカスという声は聞いたことがない、聞いてみたいね」と会話したことを思い出しました。蒲谷先生と朋友であった高野さんは、『フィールドガイド』の執筆のおり、鳴き声については蒲谷先生のアドバイスを受けています。その蒲谷先生は、1976年に新潟県佐渡島で繁殖しているオオコノハズクの録音に成功しており、その音源をもとにアドバイスをした可能性が高く、それに準じた文言になったのだと思います。
 また、拙ブログで紹介した崎川範行さんの飼育記録が発表されたのは、1965年頃(飼育開始1957年+6年生存=1963年+α)ですから、それ以降はこの報告を参考にしている可能性があります。崎川さんの記録には、「ポスカス」はなかったのですから「ポスカスと鳴く」と書くことはなくなったのかもしれません。

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コメント

まつ様

私も図鑑を並べて聞きなしを比べた時に「ポスカス」を聞いてみたいと思いました(笑)。

今年はアオバズクやミゾゴイを比較的近い距離で聞くことができて、一般的な聞きなしにはない「唸り声」のような息継ぎ音のような声を聞くことができました。
なので、オオコノハズクの木魚鳴きも、距離が近ければ「スカス」の部分に相当する息継ぎ音が聞こえる可能性はあるなぁと思いました。

あと野外ではあまり起こらないですが、室内音響だと低音の連続音は『後部残響音』によって「シー シー」といった、うねった倍音を発生することがあるので、反響によっては「ポスカス」になるのか?とも思いました。

さえずり、地鳴き、警戒、雌雄の違いなど、もっと詳しく知りたいですね。
歴代の鳥類学者を悩ませたオオコノハズク、謎が多いだけに魅力を感じます。

S木♂様
 アイディアを拝借させていただき、恐縮です。おかげで、面白いことがわかりました。
 昔は、飼っていたので、間近で声を聞く機会も多かったと思います。そのため、息継ぎも声を聞くことができたためかもしれません。
 飼育個体で、確かめられたらと思います。

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