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2014年6月21日 (土)

「ミミズクのポウ助」-オオコノハズクの声の確実な記録

 本州のオオコノハズクがどのように鳴くのか、資料がなくて苦慮しておりました。だいぶ前に録音仲間のE村さんから「オオコノハズクの飼育記録に鳴き声のことも書いてある」と、コピーをいただきました。崎川範行さんの「オオコノハズク奇談」と「ミミズクのポウ助」です。これは、下村兼二、堀内讃位、崎川範行、鴨川誠・著『全集日本野鳥記1』(1985・講談社)に収録されているものでした。今回、オリジナルを入手することができましたので紹介したいと思います。この全集には、崎川さんの文章が12編(36ページ)収録されていますが、このうちの2編20ページ分がオオコノハズクの飼育記録です。
 なお、崎川範行さん(1909-2006)は、東京工業大教授、のちに名誉教授。専門は燃料化学のほか、趣味の宝石、焼き物なども研究でも知られています。また、日本野鳥の会の古くからの会員で中西悟堂とも親交があり、『野鳥』誌にたびたび投稿しています。
 この記録は、藤原英司さんの解説によると1957(昭和32)年頃のこと。オオコノハズクは、大学の煙突のなかに入っていたのを学生に捕らえられたものだそうで、ポウ助と名付けて6年間死ぬまで飼育しています。当時も東京工業大学は、東京都目黒区大岡山にあり、そこで捕獲されたことになります。捕獲されたのは、”一昨年の秋”と書かれていますので、越冬していたものでしょう。
 たとえば、中西悟堂の『野鳥と共に』(1935・巣林書房)にも、オオコノハズクの飼育記録が収録されていますが、鳴き声についての記述はありません。悟堂は彼女と言っているので雌だったのかもしれませんが、その根拠も書かれておらず、残念な記録となっています。その点、崎川さんは科学者であるだけに、たいへん緻密で客観的な記述がされていて、とても参考になりました。では、鳴き声についての部分を抜き出して紹介します。

『オオコノハズク奇談』(注:飼育2年目の記録)
「見かけによらぬ可愛らしい声で、ポッポッポッポッ、というのである。ちょうどあの鳩時計の調子で、ただ、次第に低く下げてゆくのである。(中略)そのあとに続けて、ホーウ、ホーウと呼ぶ」
「昼間眠いときに、低い声でオギャー、オギャーと赤ん坊の泣き声のようなのを繰り返している。」
「そのほか、竹の管を吹いたような声をだすことがある。これは、恐怖の時の叫びであり、高音でポーッと昔の汽車のような声をだすのは甘えているしるしである」
「突然、人影が現れたような時は、キキキッと小さいながら鋭い声を出す。」
「威嚇は嘴をパチパチ鳴らして、フウ、フウという呼気音をだす。」
「だいたいにおいて無口である。例のポッポッポッもめったには鳴かない。」

『ミミズクのポウ助』 (注:飼育6年目、死亡後の記録)
「部屋に子供たちが集まって賑やかなときは、楽しそうに低い声でホーウ、ホーウと繰り返して鳴いている。」
「誰もいない時に突然ドアをあけて部屋にはいると、小声でキ キ キ キッと叫ぶ。(中略)中西悟堂氏はそれを嬉しい時の声ではないかと言われる。悟堂氏のところのオオコノハズクは餌をもらった時、この声を出すそうだ。」
「きげんの良いときにはコロコロッという声をだすことがある。」
「例の低声のホーウ、ホーウがその本来の歌なのだと思う。アオバズクやフクロウように大きな声をださいので人に知られていないのだろう。」
「1日1度か2度ポッポッポッポウと鳩時計そっくりの声をだす。(中略)オオコノハズクの囀りだと思っている。」

 まず、”鳩時計のような声”の「ポッポッポッポウ」は、拙ブログでは木魚鳴きとしているさえずりと思われる声でよろしいかと思います。低い声で、大きな声でないと書かれているので合致します。また、あまり鳴かないのは飼育下で雌の存在という刺激がない、あるいは呼応する他の雄の声が聞こえないためだったのでしょう。この声は、テリトリーソングではないかと推測しています。
 「ホーウ、ホーウ」は、『野鳥大鑑』に収録されている音源にもあり、私が行徳野鳥観察舎で録音できた「プオー」という声に相当するものだと思います。蒲谷先生は、雄と雌が巣のそばで鳴き交わしていたときの声と書いています。この声は、ラブソングの可能性があります。
 「キキキッ」「キ キ キ キッ」は、行徳野鳥観察舎と野外でも録音できている声で、崎川さんは、はじめは警戒と思ったが嬉しいときの声であった言っています。『野鳥大鑑』に収録されている音源も私の行徳野鳥観察舎での録音でも「プオ-」といっしょに「キュリリリ」もあり、ラブソングの合間に喜びを表しているのではと思います。「コロコロッ」もこれに近い声なので、同じ意味でしょう。
 ”赤ん坊のような”「オギャー、オギャー」という声は、『野鳥大鑑』に収録されている2番目の地鳴きとされている声に相当すると思われ、存在の確認をするための声だと思います。
 崎川さんの記録で、今までオオコノハズクの声であろうと思われながら書かれていないのは、イヌのような声の「ワ、ファファファ」とネコのような声の「ミュー、ミュー」です。これに相当する声の記述はありません。崎川さんが飼育していたのは、さえずりをしているので雄。となると、書かれていない声は雌特有の声なのかもしれません。
 これらを元に、今後の野外での録音、あるいは飼育下での記録から、オオコノハズクの鳴き声を解明するヒントになればと思います。
 E村さんからコピーをいただいたお陰で、面白いことがわかりました。お礼申し上げます。

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