ヤマドリ雌の全長
先日の日本野鳥の会の総会で、安西英明さんから『フィールドガイド日本の野鳥』改訂の進捗状況の報告を受けました。膨大な量であるばかりでなく、間違いがあってはならない作業なのですからたいへんです。
このたいへんなところ、誠に申し訳なかったのですが、以前より気になっていることを申し上げました。それは、ヤマドリの雌の全長です。現在、『フィールドガイド日本』では、ヤマドリの雌の全長は55cmになっているはずです。というか、連盟図鑑、叶内図鑑、真木図鑑、鳥くん図鑑、文一図鑑と、どの図鑑をみても55cmとなっています。私の関わった『野鳥大鑑』も同様です。ところが、全長の原典である『野鳥便覧・下』(榎本佳樹・1941)では、♀505mmとなっています。それも、亜種のシコクヤマドリであり、平均の欄が空欄なので1件しか記録がないことを示しています。ちなみに、♂1250mmとなっています。
この全長が図鑑に生かされるのは連盟図鑑の前身である『野外観察用鳥類図鑑』(高野伸二、柳沢紀夫・1965)からとなります。これには、ヤマドリの全長は♂1250mm、♀500mmとなり、明らかに『野鳥便覧・下』を参考にしていることがわかります。雄は同じですが雌は5m短くなっています。どうも1cm以下は切り捨てたようです。
次いで全長が表示がされている『野鳥識別ハンドブック』(高野伸二・1980)、『フィールドガイド日本』(高野伸二・1982)では、どちらも♂125cm、♀55cmとなっています。これも『野鳥便覧・下』を参考にしたことは明らかで、雄は同じですが、なんと雌は5cm伸びています。野外で1割大きいとなると、かなり差を感じる数字となります。そして、この数字は今に至るまで伝承し続けられていることになります。
ヤマドリは日本特産の鳥ですから海外の文献にあるとは思えず、1965~1980年の日本の文献のなかに55cmの根拠がないかと調べましたが見つけることができませんでした。ということは、高野さんの転記ミスの可能性が高いと思います。また、私も含め多くの図鑑が、『フィールドガイド日本』を参考にしていることがわかります。
ちなみに、ほぼ最新の”Birds of East Asia”(Mark Brazil・2009)では、♂87.5cm-136cm、♀51-54cmとなっています。
だからこそ、図鑑の制作は間違いがあってはいけないことであり、それにはたいへんな能力と労力が必要な作業となります。安西さん、無理をしないで頑張ってくださいね。
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