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2016年10月30日 (日)

典型とはなにか-『鳴き声ガイド日本の野鳥』メーキング

 なぜ初心者には、イラストの図鑑が良いかというと、イラストらならばその鳥の姿の最大公約数的なところを捕らえて描くことができるからです。なかでも『フィールドガイド日本の野鳥』が素晴らしいのは、高野伸二さんが長年観察されたその鳥の姿の印象が凝縮されて描かれているからです。写真であれば、たまたま個体差のある写真が掲載されてしまうかもしれません。そうならないためには『♪鳥くんの比べて識別!野鳥図鑑670』のようにたくさん写真を載せるという手法をとらざるをえないのです。
 鳴き声はイラストのように人工的に表現することが困難です。そのため『鳴き声ガイド日本の野鳥』では、少しでも多くのバリエーションを収録することにしました。それでも、収録する数には限りがあります。そのため、できるかぎり典型的な鳴き方を選ぶことになります。ここで、困ったのは典型とは何かです。
 たとえば、ウグイスのさえずりは「ホー、ホケキョ」で亜種や北海道をのぞけば、おおむねこの鳴き方です。典型がかなり限られている鳥の代表です。では、センダイムシクイはどうでしょう。「鶴千代君」あるいは「焼酎一杯ぐーぃ」と聞きなしされるさえずりは、関東では一般的ですが、北海道では「チヨチヨ」と鳴き続け、私は最初わかりませんでした。しばらく、聞いていると「ジーィ」と鳴いてくれて、センダイムシクイとわかりました。逆に北海道のバードウォッチャーには、関東で録音した音源ではわからないことになります。
 また、アカハラのさえずりは図鑑には「キョロン、キョロン、チリリ」と書かれ、2音節半で鳴くと教わりました。ところが、音源をチェックしてみると「キョロン、キョロン」だけや最後が「チッ」のもの、1音目と2音目が違うものなど、バリエーションが多いのです。そのため、アカハラはさえずりだけで4パターン収録しました。シロハラのさえずりは、このアカハラのバリエーションのなかにあり、この2種類を聞き分けるポイントをいまだ見いだせないでいます。
 さらにオオルリやキビタキ、クロツグミといった複雑な節でさえずる鳥であればあるほど、個体差が大きく典型を示すことが困難になります。
  地鳴きも同様で、たとえばキビタキは「ヒッ、ヒッ、ヒッ」のなかに「グリリ」が入るのが特徴と言われています。しかし、「ヒッ、ヒッ、ヒッ」だけの鳴き方をするものもいて、姿を見るまでジョウビタキかルリビタキか判断できなかったことがあります。
  今回、音源をチェックすると典型がわかりにくい鳥、あるいは典型がない鳥がいることがわかりました。それなのにベテランがわかるのは、節ではなく音色で識別しているからでしょう。そして、そう鳴くと思い込んでいるからそう聞こえるのではないでしょうか。
  聞けば聞くほど、知れば知るほど、鳴き声は奥が深いですね。『鳴き声ガイド日本の野鳥』が、その入り口になってもらえれば幸いです。

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