価値ある音源-『鳴き声ガイド日本の野鳥』メーキング
蒲谷先生に「○○が、こんな声で鳴いていました」と、ご報告すると「リップシンクロしていましたか?」と、良く聞かれました。リップシンクロとは「嘴の動きと鳴き声が一致しているのを確認できたか」ということです。たとえば、「チッ」とう声が藪の中から聞こえてアオジが飛び出してきても、藪のなかにクロジがいて鳴いたかもしれないからです。
私自身、クマタカを見つけて鳴いているので一生懸命録っていたら、ノスリの声に聞こえて確認したらノスリだったことがあります。木々の間からの観察で、いつの間にか入れ替わってしまっていたです。あとで考えますと、ノスリの声はクマタカへの威嚇、警戒の声だったのです。
録音していると、リップシンクロの確認というのは、なかなかできません。見るために体を動かすと、その音がノイズになるからです。また、動いたことで鳴きやみ、飛んでいってしまうかもしれないからです。それだけに、リップシンクロした録音は貴重です。鳴き声の図鑑を作るときに多少ノイズがあっても、いちばん確かな音源は「リップシンクロした鳴き声」となります。
といって、すべてリップシンクロした声を収録することは不可能です。そのため、次善の策は、別の機会にリップシンクロを確認できた音源となります。遠くて録音できなかった、ノイズの多いところで鳴いていたなど、録音ができなくてもしっかり観察できれば、十分だと思っています。
さらに、『野鳥大鑑420』や『野鳥の声283』と聞いて一致、声紋も似ている音源となります。ただ、似たような声で鳴くものがないという条件があります。ホオジロ系の地鳴きは、やはりリップシンクロした音源を使用しています。
重ねて、飼育下の録音です。野外と違って、ほぼ目の前で鳴いてくれるので種の確認は間違いありません。そのため、参考資料として機会を見つけては録音していました。今回は、これらの鳴き声も収録しています。
以上は種類の確認ですが、図鑑に収録するのには、さらなる条件が必要です。自然のなかで1種類だけが鳴いていることはまずありません。だいたい、他の鳥の声がかぶっています。そのような音は写真図鑑で言えば、鳥の混群を1種類の写真として示すようなものです。どの声が目的の鳴き声か、わからなくては不親切です。1種類が鳴き、他の鳥の声やノイズがかぶっていないクリアな録音でなくてはなりません。
これは、録音するときにできる限り近づき1羽をクリアに録ることが、まず必要です。しかし、自然の中ではそのようなチャンスばかりではありません。そのため、長めに録音して、他の鳥の声がかぶっていないところを切り出しわかりやすくします。
また、鳥の声ばかりではなく環境のノイズも大きいと聞きづらいものです。「ゴーッ」という音や「ポコポコ」と聞こえる風の音、音源によっては人声やシャッター音も取って、クリアに聞こえるように加工しました。これは、コンピュータの編集ソフトでかなり楽にきれいにすることができます。
今、心配なのは、逆にクリアすぎて音と音の切れ目がわかりにくいというクレームが来るかもしれないことです。
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