「ヒバリの高鳴き」って、あり?
ネットで鳴き声についていろいろ調べていたら「ヒバリの高鳴き」という言葉が出てきました。かなり違和感をおぼえましたので、調べてみました。
たとえば、ペット系のサイトに「(ヒバリの)オスは、春になると自分の縄張りを構えて縄張り宣言をします。これは『ヒバリの高鳴き』という仕草で、空中を高く舞い上がりホバリングしながら鳴き続けます。」とあります。”行動”というところを”仕草”、なわばりを巡回するので”ホバリング”はしてないでしょと突っ込みどころはあります。しかし、検索すると同じ言葉がバードウォッチャーや野鳥カメラマンらしい個人のサイトでも使われ、いくつも上がってきます。
いろいろ検索方法を変えてみると、もっとも古いものが2004年のサイトで、それ以前の書き込みでは見つけることができませんでした。最近になって使われるようになった言葉なのでしょうか。
違和感をおぼえたのは、高鳴きとはモズが秋に山から下りてきて平地でなわばりを構えるために鳴く声のことだと、ずっと思っていたからです。高い所にとまって鳴く、あるいは高い声で鳴くから高鳴きと思っていました。ですから、モズに対してのみに使う言葉として、今まで認識していました。
そのため、ちょっと調べてみました。江戸時代の文書を集めた『古事類苑』(神宮司庁・1896-1914)のモズの項には、高鳴きという言葉はありませんでした。同様にヒバリの項にもなく、高鳴きそのものも言葉として収録されていませんでした。
また、鳥の文化的な資料を羅列してある『鳥』(亀井紫雲、内田清之助・1929)のモズはもちろん、ヒバリの項にも高鳴きという言葉を使っての解説はありませんでした。てっきり野鳥についての俳句の季語を集めた『野鳥歳時記』(山谷春潮・1943)を見れば、秋の季語として載っているかと思ったのですが、モズ、ヒバリともありません。このあたりの本をざっくり調べていて、思い当たったのが川口孫二郎の『自然暦』(1943)です。やはり、「モズの高鳴き七十五日」がありました。信濃のことわざで、モズが高鳴きをしておよそ2ヶ月半後に霜が降りるという意味です。これ以降、このことわざの引用とともに高鳴きが流布した可能性があります。
ということは、信濃の人たちはモズの高鳴きという言葉を大昔から使っていたが、野鳥関係で使われるようになったのは1943年以降、実質的に戦後であった可能性があります。ちなみに、『自然暦』に「ヒバリ高く上がれば晴天」はあるものの高鳴きはありません。
すべての鳥関係の本を調べたわけではありませんので、ひょっとしたら他にもあるかもしれませんが、今のところヒバリの高鳴きは見つけることはできませんでした。
高鳴きは、専門用語して定義されている言葉ではありまんので、混乱を招くこととなります。”笹鳴き”をウグイスのみに使用するのと同じで「藪のなかでミソサザイが笹鳴きをしていた」と言われると、違和感を覚えると同じです。
私としては、やはり高鳴きはモズのみにか使いませんね。
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