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2017年10月 3日 (火)

日本で最初の野鳥録音・その2

 悟堂さんは、同じことを野鳥誌から単行本まで何度も書いています。そのたびに微妙に言っていることが変わることがあります。そのため、初出の『野鳥と共に』(巣林書房・1935)から引用します。
 須走探鳥会のために、多くの参加者は東京駅に集合します。そのなかに「猪川前橋放送局長には初対面であった。早暁上州沼田の迦葉山で録音した声の仏法僧を、大変な早業で午前中に前橋に取寄せ、それを携えて午後1時までに東京駅に馳せつけられたのだそうである。須走へ持参して、宿の夜のつれづれに一行にきかせたいという御厚志である。」ということで、コノハズクのレコードを持ってきたのは猪川さんでした。なお、当時はまだブッポウソウが「ブッポウソウ」と鳴くと思われていたので仏法僧と表記されていますが、コノハズクのことになります。
 米山館とホテルに泊まる人がいたので「ではその前にというので、すぐに茶菓をかこんで、猪川氏持参のレコードの仏法僧を聴く。円盤が廻ると、ブッポウ、ブッポウと、かすかに、哀調を帯びて、その鳥が鳴く。けさ迦葉山で鳴いていたその鳥を、夜に岳麓できけるとは便利な世になったものである。目をつぶってその声を傾聴していると、静寂な山の鳥の姿と共に、流動してやまぬ時世の姿が一個のモンスタアのように眼底を過ぎてゆくのを覚える。」と、間違いなくコノハズクの鳴き声のレコードを皆で聞いたことになります。
 まず、猪川前橋放送局長は、猪川珹さんです。猪川さんは、須走探鳥会の写真にも写っています。後列の柳田國男の長女千枝子と画家の金澤秀之助の間から控えめに顔を出している丸いサングラスをかけた方です。多くの人がスーツにネクタイ姿、なかには和装の人もいます。猪川さんも洋装でマフラーをしているように見えます。また当時、サングラスをかけるのは、かなりおしゃれだったのではないでしょうか。
 猪川さんは、日本の野鳥史上、始めて野鳥の声を電波に乗せた人物として名を残しています。姓の猪川は”いかわ”、あるいは”いがわ”と読むことは間違いないでしょう。問題は名のほうで、コンピュータによっては名の漢字が表示されず?マーク、あるいは”白い四角”になっているかもしれません。unicodeの73F9、王編につくりが成という馴染みのない漢字です。読みは”せい”ですが何と読んでいたか不明です。ネットの情報では、生年は1886年、没年は1960年、74歳でお亡くなりになったことになります。著書は『野鳥襍記』(彰考書院・1956)があるのみ。しかし、自然番組の原点を探っていくと、この猪川さんの名前と仕事に行き着きます。そして、彼が企画し放送したコノハズクの声に飼育されていたコノハズクが反応して、「ブッポウソウ」と鳴く鳥はコノハズクと解明されるきっかけとなります。

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 『野鳥襍記』には中西悟堂が序を寄せいてます。それによると猪川さんは、長野放送局長、前橋放送局長、仙台放送部長、京都放送局長を歴任したとなっています。どこの放送局か書いてありません。しかし、考えてみれば昭和25(1950)年に電波法が改正され民間放送が開始される以前の話、日本で唯一の放送局であったNHK(日本放送協会)ということになります。ただし、当時はそれぞれの地方の放送局名で呼んでいたようです。
 日本で最初のラジオ放送が行われたのは、大正14(1925)年3月22日。このときの呼びかけの「JOAK、JOAK、こちらは東京放送局であります」が第一声。ということは、猪川さんが活躍したのはラジオ放送が始まってわずか10年たらず、このときにすでに局長、部長という要職に着いていたことになり、かなりのやり手であったことがわかります(つづく)。

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コメント

定年間近になって、仕事が忙しくなり
(人が減ったせいなのですが)
ご無沙汰しておりました。

この記事を読ませていただき、私も須走探鳥会のところは目を通していたと思っていたのですが、高田兵太郎の鳥声模写で鳥を寄せた話が印象に残り このような大事な話が書かれてとは、目を通しただけで記憶には残ってなかったです。 
昭和9年以前にコノハズクの声が録音されていたとは驚きもあったのですがこのレコードは現存し、市販されていたのか気になります。

お久しぶりです。
兵さんは、魅力的な人物ですね。
その3でも登場する予定です。
このレコードが市販されていないと思います。NHKのアーカイブに保存されているか。あるいは、猪川家にあるかも。
いずれにしても、もう少し続きます。

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