日光の鳥の古記録-小川三紀が見なかった鳥
日光で、小川三紀さんが見た鳥と現在の鳥相とは、大きな違いがありません。
しかし、よく見ると微妙な違いがあります。
たとえば、今ではまずいない種類としては、コガモとヒクイナです。ヒクイナは、栃木県では1980年代前半までは平野部の河川や沼の周りや水田で見られ、奥日光の戦場ヶ原では普通に生息しており朝夕には鳴き声が聞かれ、雛連れの姿もよく観察されたと言われています。私が通いはじめたのは1991年からですので、すでに戦場ヶ原から姿を消したあと、関東地方では珍鳥になっていました。
コガモは、古い図鑑を見ると「中部以北の山地、北海道で繁殖」と書かれています。過去の鳥類繁殖分布調査報告書の記録を見ると、意外と平地でも散見しています。記録が話題にならないのは、コガモがあまりにも普通種のせいでしょうか。ですから、いま繁殖しているマガモやオシドリの誤認とも思えません。
小川さんの見ていない鳥について考察したいと思います。
1編目の論文の最後に「7月中湯元に見ざる鳥類」と項があって、小川さんのフィールドの富士山麓にはいるけれど日光にはいなかった鳥として9種類あげています。なお、湯元は、戦場ヶ原も含まれています。
オオヨシキリ
コヨシキリ
ホオアカ
アオジ
ツバメ
アカモズ
セグロセキレイ
スズメ
です。オオヨシキリは標高の高さからいなくてもよいかなと思います。
コヨシキリは、私が通いはじめた頃は戦場ヶ原で毎年見聞きしていましたが、2000年代に入っていなくなってしまいました。
ホオアカは、2編目の8月の記録で出てきますので、いました。今もいます。
ツバメは、赤沼茶屋や近くのビジターセンターに巣をかけたことがあります。
アカモズは、私の学生時代1970年代でも軽井沢にはたくさんいたので、日光でもいてもおかしくないということでしょう。
セグロセキレイは、現在の中禅寺湖や湯の湖のほとりであればいます。
スズメは、光徳牧場で見ることができます。当時は、家屋の密度が疎でスズメが巣を作るだけの番が集まらなかった可能性があります。
アオジがいない理由を考えてみました。まず、昔の絵はがきをご覧ください。
「日光湯元戦場ヶ原三本松」です。今は、大きな駐車場と大規模な土産店が並んでいますが、この絵はがきを見る限りバラックのようです。三本松のお茶屋の創業は明治4年だそうですから、この絵はがきは少なくともそれ以降の風景だと思います。この真ん中の道が、今の国道ですから山の形は同じでもずいぶん風景が違うことがわかります。大きな違いは、ズミの林がないことです。その他の樹木もほとんどなく、平原が広がっています。
アオジの生息地のコンセプトは、疎林。あるいは灌木林だと思います。現在の赤沼あたりがいちばん理想的な環境となります。それだけに、行けばかならずさえずりが迎えてくれます。その灌木がないのですから、草原好みのホオアカ、ノビタキはいてもアオジはいないか少なかったことになります。
この他、現在見られて小川さんが見ていない鳥をあげると、オオジシギがいます。いれば気が付く鳥なので、見落としではないでしょう。いなかったことになります。
オオジシギもアオジ同様に湿原の微妙な要素が欠けていたのか、それとも狩猟により減少していたため、生息していなかった可能性があります。
ちなみに以前、紹介したジューイさんの論文にも、アオジとオオジシギは記録されていません。
100年以上の時を超えて鳥の変化を比較できるところは、そうあるものではありません。湿原という不安定な環境だけに100年という時間は、大きな変化をしたと思います。鳥の変化からも、その片鱗をうかがうことができます。
そう思うと、今のなにげない記録が将来とても貴重になると思います。
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奥日光の野鳥の古記録を興味深く拝見いたしております。
この項でコガモとヒクイナが話題にされているので、奥日光で見た思い出を書きます。
コガモは20年?くらい前の夏の時期に、光徳沼で成鳥を見たことが一度あります。
その時は「コガモも日光で繁殖しているんだなあ」と思いましたが、観察したのはその一度きりです。
ヒクイナはこれも20年くらい前に、戦場ヶ原で声を聞いたことがあります。これも一度きりです。
赤沼から戦場ヶ原を歩いて行くと樹林を抜け視界が開けます。休憩所を3つ通過すると青木橋に向かって木道が直角に右に曲がるところがあります。
その木道脇の茂みから「コッ、コッ、コッ」という声が聞こえてきました。
しばらくあたりを探しましたが、結局声はしなくなり姿も見られませんでした。
釣り人だったら木道を降りて探しに行けたかもしれませんね。
観察日もはっきりしない情報ですが、覚えていたのでお話いたしました。
投稿: つな | 2019年10月31日 (木) 07時31分
つな様
コメント、ありがとうございます。また、貴重な情報、感謝です。
私が日光通いをはじめたのは1991年以降、コガモもヒクイナも出会えていません。20年前というと2000年くらいですから、これからも可能性はありますね。
ヒクイナは、とくに日没後と日の出前後に良く鳴くで、タイマー録音で見つけることができるかもしれません。これから、楽しみです。
投稿: まつ | 2019年10月31日 (木) 19時44分