一度に2つの声を出せる-クロツグミ
以前から気になっている野鳥の鳴き声についての課題があります。
たとえば、『鳥類学』(2009・Frank B. Gill)の「鳥類は2つの独立した声をもつ」というコラムには、鳴管の左右の筋肉を別々に動かすことで異なった音を同時に発声して、よりさえずりを複雑にすることができると書かれています。翻訳本なので、具体的な例としてアメリカのモリツグミの声紋が載っています。
日本の鳥で一度に違う音を出している例はないか、探してみました。
ウグイスなど単純な節でさえずる鳥の声紋は見慣れていますが、声紋が重なって見えることはありません。おそらく、複雑なさえずりをするタイプの鳥が怪しいとオオルリやクロツグミに、あたりをつけて探してみました。
音源をチェックすると、ヒヨドリやセンダイムシクイなどほかの鳥の声と重なっていたり、遠いために声紋が明瞭に出ないなど、思うようなサンプルを見つけるのは、たいへんでした。オオルリもクロツグミも、音が重なっているさえずりはなかなか見つかりません。基本、このような鳴き方をするタイプは少ないことは間違いなさそうです。
最近のものから、チェックしていったのですが、昔に録音したクロツグミにそれらしい鳴き方をするものを見つけました。
栃木県日光で1997年5月29日に録音したもので、まだDATの時代に外付けしたステレオマイクで録音しています。録音は23分28秒あり、この間休みなく鳴き続けていました。録音する前から鳴いていましたので、30分以上はさえずり続けていたと思います。
このクロツグミは、節のパターンが10以上あり、これを不規則に繰り返していました。その節のなかにときどき声紋が重なっている部分がありました。なお、黄色の濃い部分と同じパターンで、上に出る色の薄いものは倍音で重なっている音ではありません。違うパターンで、同じ濃さの黄色が2つめの音です。
以下、声紋とその部分の節の音源を上げておきます。なお、天地は0~24,000Hz、左右はそれぞれ違いますが、5秒程度です。
1パターン。
なかほどの「チュイーッ、チュイーッ」と聞こえる部分で、音が重なっていました。
2パターン。
後ろのほうの「チーッ」という短い声の部分で、重なっています。
3パターン。
後ろ部分の「チューチチ、チーッ」と2つの句で、重なっています。
このような2つの音が重なった節は、ときどき出てくるだけです。また、5,000Hz前後、あるいはそれ以上の高い音の場合にやっている傾向がありました。いずれも、野外で聞いて「今、重なった音で鳴いた」とわかるものではないと思います。
よりさえずりを複雑にする手段として鳴管の左右別々に器用な雄がもてるのか、次の課題です
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