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2021年2月

2021年2月24日 (水)

カワアイサのディスプレイ-日光

 朝起きたら、日光の杉並木が大きく揺れるほどの強風でした。
 前日の夕方に録音機をダムに仕掛けに行ったときは、カワアイサが10羽ほどいて雌のまわりに雄が集まってディスプレイの真っ最中、よく鳴いていました。そのシーンが録れればと思いタイマー録音を仕掛けてきました。
 しかし、この強風では録音も失敗かと気落ちして回収に行きました。
 音源をチェックすると、幸いなことに風が強くなったのは午前7時頃。タイマー録音は、日の出時間の6時30分の1時間前、5時30分から8時30分の3時間の設定でした。そのため、1時間以上、それほど風の影響を受けず録音されていました。
 TASCAM DR-05で録音、ボリュームの増幅、500Hz以下のノイズのカット、ノイズリダクションをかけています。


 カワアイサのディスプレイの鳴き声です。雄が鳴き、終わりのほうの濁った声が雌の声です。
 カワアイサのディスプレイの声は、何度聞いても不思議な音に聞こえます。最後のほうの雌の「ガガガ」を聞けばカモの仲間らしいと思いますが、雄の声はとてもカモの仲間とは思えない音を出しています。
 現場で聞いて、この声をどのように表現したら良いのか、考えました。カタカナで書けば「ムーン、ムーン」あるいは「ビューン、ビューン」でしょうか。私は、アイヌの楽器ムックリの音とリズムが近いように聞こえます。もし、表現するのであれば「ムックリのような音で『ビューン、ビューン』と鳴く」と書くのが近いことになります。ただ、これでも、カワアイサの神秘的な鳴き声が伝わるかどうか、疑問です。
 この微妙な鳴き声をどのように表記したら良いのか、手元にある鳥類図鑑にはどのように書かれているか見てみました。驚いたことに、多くの図鑑ではカワアイサの鳴き声が書かれていませんでした。また、書いてあったのは、わずか2例で1例は雌の鳴き声、もう1例は私自身聞いたことのない声の表記でした。このムックリのような鳴き声に該当する記述を見つけることはできませんでした。もちろん、出版されている図鑑すべてを所蔵しているわけではありませんので、あらかじめご了承願います。
 ウミアイサ、ミコアイサについても同様です。鳴き声による識別が必要の無い種類であることは確かですが、ディスプレイの有無は観察記録の重要なポイントです。それだけに、鳴き声についての記述は必要だと思います。
 

2021年2月20日 (土)

『しろかねの森番50年』-ご紹介

 「矢野亮先生は、オールマイティだから」といつも助けられたのは、私が日本鳥類保護連盟の『私たちの自然』の編集をしているときのことです。鳥はもとより植物から昆虫、生態系の仕組みまで解説できて、それもわかりやすいのですから、記事がどうしても埋まらないとき、困ったときの矢野先生だのみでした。目黒の自然教育園という最高のフィールドで調査を行い来園者を案内し報告書をまとめていたのですから、それもそのはずです。
 その50年史をおまとめになり、いただきました。

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 『しろかねの森番50年』です。
 連盟時代、矢野先生には『私たちの自然』の編集委員としてお世話になりました。月1回の会議にはいつも同僚の千羽先生とごいっしょに一番乗りで、早めに来ては投稿原稿に目を通していただきました。とにかくネタの宝庫で、原稿のたりない分を補っていただきました。どうしても鳥ネタが多くなる中、自然全体を扱いたい雑誌としては昆虫から植物まで幅広く生き物を解説していただける矢野先生は、頼りがいのある大先輩でした。また、先生を通じての人脈の広さも、多いに助けられたことを思い出しました。
 今回の『しろかねの森番50年』を拝見して、その理由がわかりました。先生は、自然教育園だけでなく。高尾山から御蔵島まで、多くのフィールドで経験を積み、さらには仲間を作り、教育園で仕事をされていたことを知りました。
 本書は、自分史となっていますが、自然教育園の自然と生き物たちの50年の記録であり、都会の自然を知る上で貴重な記録となっています。
 たとえば、カワセミの写真はあふれているものの30年も続けて観察した方がいたでしょうか。また、個人的にはここ数年、六義園でも増えたキアシドクガはミズキが食草で枯らしてしまう報告、六義園のミズキの実が少ない理由がわかりました。などなど、あげればきりがありません。どうぞご興味のある方、ぜひ自然教育園で入手してください。

2021年2月16日 (火)

写真集BIRD ISLAND TEURI-ご紹介

 バードウォッチングといえば癒やされるのが普通ですが、緊張感というかハラハラしながら鳥を見たのは北海道の天売島がいちばんです。なにしろ、巣に戻ってくるウトウは人がいるのもおかまいなしに飛んできます。そのため、いつぶつかるかわからない中でのバードウォッチングとなります。飛んでくるウトウをすばやくかわしながら、羽音や鳴き声を録音するのですから気を抜けません。幸いにして帽子を飛ばされたくらいですみましたが、ウトウがぶつかった人は当たり所が悪いとかなり痛いとのことでした。
 そんなバードウォッチングを楽しめたのも、寺沢さんにガイドをお願いしたおかげです。その寺沢さんが”BIRD ISLAND TEURI”というタイトルの写真集を出版されましたので、紹介させていただきます。

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 天売島は、島そのものが野鳥の楽園です。それだけに、写真を撮るのは楽そうです。しかし、この写真集を見ると1作品それぞれその鳥ならではシーンをとらえていて見応えがあります。私のようにトランシットして天売島を訪れて、鳥がいると言ってただ撮った写真ではなく、長年天売島で鳥と自然に接し、いちばんその鳥らしい、あるいはいちばん素晴らしいシーンをとらえた作品ばかりで構成されています。
 ですから、天売島の野鳥たちを知るばかりではなく、島の自然から広がる世界を感じることができる写真集になっています。きっと天売島を訪れたことのある人は写真集を見てまた行きたいと思うことでしょう。まだ、行ったことのない方はぜひ訪れ見たいと思いたくなる写真集です。
 寺沢さんのおかげで録音できたウトウの帰還の録音を聞くと、あのエキサイティングなバードウォッチングを天売島の夕日ととともに思い出します。
アマゾンのURL。
https://www.amazon.co.jp/BIRD-ISLAND-TEURI-%E5%AF%BA%E6%B2%A2%E5%AD%9D%E6%AF%85/dp/4802132239/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=BIRD+ISLAND+TEURI&qid=1613453039&sr=8-1

2021年2月11日 (木)

鈴木孝夫さん・逝く

 戦後の動乱期に日本野鳥の会の活動の灯火を守り、今に伝えてくれた恩人がお亡くなりました。鈴木孝夫さんです。
 ちょうど先日、日本野鳥の会の安西英明さんから鈴木さんのお手紙が回ってきたところです。手紙には「(略 老衰です 略)、私は今、暗い気持ちでなく、明るい気持ちで別世界に発っていきます。(略)皆さまにはどうぞお元気で、さようなら。」と短い手紙ながら、いろいろな思いを馳せることができる内容でした。これだけ認知機能がしっかりしているならば、もう1度ぐらい会えるだろうと思っていただけに残念です。
 鈴木さんには、日本鳥類保護連盟在職中にお世話になりました。鈴木さんの経歴を見ると凄いの一言なのですが、若輩の私にもていねいに接してくれたことを覚えています。なにしろ、鳥の世界では大先輩ですし、慶応義塾大学教授、戦後最初のアメリカ留学をしたエリート、そして日本語と英語を中心とした言語学の権威なのです。言語学の世界では神様のような方なのですから、安西さんのように「孝夫ちゃん」なんて呼ぶことは恐れ多いのですが、そう呼べるお付き合いをしてくれました。 
 ご自宅をおたずねしたことがあります。データをチェックしたら2011年7月のことで10年前でした。バードアーカイブスの塚本さんがだんどりをしてくれて、蒲谷鶴彦さんの奥さんの久代さん、息子さんの剛彦さん、音楽家で録音仲間の岡村さんと私です。
 
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 そのときのお姿です。後ろは、塚本さんです。
 ご了解をいただき録音をしたのですが、今見たらなんと2.7Gありました。4時間以上、お邪魔していたことになります。とにかく話が面白いので、あっと言う間の4時間でした。うかがいたかった話は、蒲谷鶴彦さんなどが活躍した戦後の日本野鳥の会のようすなどです。ところが、そこから中西悟堂さんの真の素顔から蜂須賀正氏さんが軍人になぐられた話、日本鳥類保護連盟を辞めた理由、裏面史というと語弊があるかもしれませんが、ここではちょっと書けない話、裏を取らないと紹介できない話もあって、間近で鳥の世界を見てきた鈴木さんならではのエピソードばかりでした。
 そして、最後にはWebserの録音機が登場して、録音の思い出話となりました。

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 鈴木孝夫さん、長い間ありがとうございました。
 謹んで、ご冥福をお祈り申し上げます。

2021年2月 4日 (木)

『朝の小鳥』スタジオ収録-3月は南西諸島の鳥

 昨日は『朝の小鳥』のスタジオ収録でした。リモートでの監修です。
 3月のテーマは、南西諸島の鳥です。南西諸島に分布していて、なおかつ本州などにもいる亜種たちです。鳴き声が違うイシガキヒヨドリやリュウキュウアオバズク、大きさが違うオサハシブトガラス、色が違うリュウキュウキジバトを取り上げました。
 今回、ネットで検索したらオサハシブトガラスのオサは、長聖道(おさ・まさみち)であることがわかりました。1904(明治37)年、オーストンに雇われて南西諸島に採集に行ったおりの成果です。
 私は今まで、ずうっと長を”ちょう”さんだと思っていました。それは、蜂須賀正氏の「日本人の手によって記録された鳥類」の記述に「オーストンコレクター長(原注:チョウにしてオサに非ず)」とあることを根拠にしていたためです。ですから、オサハシブトガラスではなくチョウハシブトガラスになったかも、とも思っていました。
 チョウハシブトガラスよりオサハシブトガラスのほうが名前としては、かっこう良いので、結果オーライです。

蜂須賀正氏 1942 日本人によって記載された鳥類 鳥 Vol.11 p270-351

2021年3月 放送予定
  3月 7日 イシガキヒヨドリ
     14日 リュウキュウキジバト
      21日 オサハシブトガラス
     28日 リュウキュウアオバズク

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