『お殿さまの定年後』-感想
このところ、もっぱら本はアマゾンで買っています。通販だと書店の棚いっぱいに並んだ本の前に立って選ぶ満足感がないのと、本から「私を読んで」という声が聞こえないのが難点です。
久し振りに書店に行ったら本から声が聞こえました。安藤優一郎・著『お殿さまの定年後』でした。声が消えたというのは嘘ですが、表紙の江戸名所百景のイラストとお殿さま、定年のタイトルのキーワードにひかれました。
江戸時代、大名の定年というのは基本はないのですが、おおむね70才が多かったとのことでした。現在の私の年とほぼ同じと言うことで、まず興味を引きました。また、取り上げられたお殿さまは、我が六義園に隠居した柳沢信鴻をはじめ、江戸の膨大な記録となる日記『甲子夜話』の松浦静山、鳥の和名の基本となった『鳥名便覧』を表した島津重豪が収録されていますので、読まないわけにはいきません。この他、水戸の黄門様で有名な徳川光圀、白河藩主の松平正信が名を連ねています。
大名になれば好き勝手なことができると思っていたのですが、大間違いでした。江戸城での年末年始の行事のみならず年中行事で多忙を極めます。格式と伝統のなか手配や出席しなくてはならないのですから、窮屈なことこの上ありません。もちろん、自分の藩の運営にも神経を使わなくてはなりません。それ以前に跡継ぎを作らなくてはならない、できなければ問題が生じないように手配しなくてはならないという大命題があります。ですから好きなことができるのは、大名と言えども隠居をしてからということになります。
信鴻は、どうも仮病を使って隠居をして六義園に住み芝居やら詩歌をたしなむなど、風流な生活を行ったようです。なにしろ津山から江戸に来たとたん元気になり、片道10数キロは歩いて歌舞伎を見に行っているのですからどこが具合悪かったのかと思います。
隠居後は吉原通いという人もいたことと思いますが、光圀や重豪のように学問追求のために残りの人生を費やす大名もいたことは、その後の日本文化の発達に与えた影響は大きなものがあります。
こうした定年後の大名の実績と苦労のエピソードが楽しめる本でした。
自然仲間のなかには定年前に会社を辞めて、好きな生き物や自然のなかで生活を始めた方が複数人います。もちろん、定年になるのをじっとまって弾けたようにバードウォッチングにのめり込み人もいます。
人生は一度だけ、時代が変わっても好きなことができることは幸せなことだと思います。
アマゾンのURL.
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%8A%E6%AE%BF%E6%A7%98%E3%81%AE%E5%AE%9A%E5%B9%B4%E5%BE%8C-%E6%97%A5%E7%B5%8C%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E5%AE%89%E8%97%A4-%E5%84%AA%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4532264553/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E3%81%8A%E6%AE%BF%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%AE%E5%AE%9A%E5%B9%B4%E5%BE%8C&qid=1616991590&s=books&sr=1-1
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