タスカム Portacapture X8を使ってみた-その6
所詮、多くの録音機は室内で楽曲を録音するために設計されています。数10m、ときには100mも離れたところで鳴く、小さな鳥の声をノイズだらけの自然のなかで録音するための機能は望むべくもありません。
たとえ室内の録音のためとはいえ、新機種が発表されるたびに多くの期待を持って購入し使用してきました。今回のタスカムのX8は、メーカーがフラッグシップ機と謳っているだけに期待も大きなものがあります。
それだけに気になるところを本文でも取り上げてきましたが、加えてのポイントを下記にしておきます。
X8の売りは、大型の液晶ディスプレイです。しかし、低温あるいは高温でのディスプレイの表示、タップの反応が可能かどうかの心配です。カタログでは「使用環境が0~40度」になっています。しかし、冬の北海道はもとより、日光あたりでも夕方や早朝はマイナス10度になることは少なくありません。寒いからと言って録音できないとなると、わざわざ寒いなか出かけた意味が無くなってしまいます。少なくとも低温は、カタログ値以上の機能があることを期待します。
また、宮城県伊豆沼のマガンの録音では、おそらくマイナス20度になっていたと思います。DAT録音機は、あっと言う間にバッテリーが放電して録音は不可能でした。電池まわりの機能も問題ないことも期待します。
防水性は望むべくもありませんが、防滴性といえるくらいの機能は欲しいものです。雨予報では野外に長時間置くことはしません。しかし、夜明け前からの録音では朝露にしっとりと濡れます。また、寒いところから回収して、車に乗せただけで結露の可能性があります。今までDR-05では、かなり過酷な使い方をしていますが、不具合は生じていません。X8にも、同等の機能があればと思います。
この他、もろもろでは。
むき出しのマイクが不安です。マイクガードがあると安心です.
裏面にある三脚ネジの場所が電池の入っていない状態での重心にあります。実際は電池を入れての使用なのですから、もっと後ろにないとバランスが悪いことになります。
裏面上部にある5mmほどのゴム(滑り止め?)はとれやすく、すでに2つとも失って、深い穴が2つ開いています。野外でゴミが入らないか気になります。とれない工夫が必要です。
なお、Bluetoothによるスマホからのリモートコントロールなど、未検証の機能があります。
おわりに
2022年5月上旬現在、アマゾンではたえず残り数点、ヨドバシカメラではお取り寄せになってしまいました。市場在庫もそろそろ無くなってきたようです。価格そのものは、6万円台で推移していますので、このまま安定して供給されるようになることを祈ります。
X8を使用して感じるのは、スマホみたいだなという感想です。タッチパネルの操作やアプリがインストールされているのは、スマホそのものです。いわば、小型のコンピュータといっても過言ではありません。
アナログ的な録音機でデジタル音源を録音していた時代から、録音機も本格的なデジタルになったという印象です。これからの録音機は、ボタン操作が無くなりタッチパネル、あるいはスマホからの操作となりAIも搭載され、野鳥の鳴き声の種名をファイルのタイトルに付けてくれる時代が来るのではないかと、想像させる機種です。
いずれにしても、未来の録音機を変えた機種として将来に名を残す機種になるかもしれません。
最後に面倒な質問に答えていただきましたティアック株式会社音響機器事業部国内営業部の山本浩史さんにお礼申し上げます。(おわり)
サンプル音源
以下にX8で録音した音源をアップいたします。
いずれも30秒ほどを切り出してのサンプル音源です。ただ、このブログではアップできるのはmp3のみです。そのためwavからmp3に変換しています。なお、フェードイン、フェードアウト、変換以外の編集加工はしていません。
ノイズと目的の音とのバランスなどおおまかな音を感じが伝わればと思います。
マミチャジナイ 2022年4月10日 六義園[48kHz/16bitで録音]
オナガ 2022年4月20日 六義園[48kHz/16bitで録音]
シジュウカラ さえずり 2022年4月26日 六義園[48kHz/16bitで録音]
シジュウカラ さえずり 2022年5月17日 六義園[192kHz/32bitで録音]
シジュウカラ 地鳴き 2022年5月17日 六義園[192kHz/32bitで録音]
シロハラ 2022年4月30日 六義園[48kHz/16bitで録音]
クロツグミ 2022年5月10日 日光市[48kHz/16bitで録音]
ヒヨドリ 2022年4月13日 六義園[192kHz/32bitで録音]
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コメント
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>まつ様
私はZoomF3を発注しましたが「何か月後になるかわからない」という状態です(笑)。
フロート演算のことなどネットで学習していて、初めて知ったのですが『何hz~何hz」という仕様ですが、マイクの場合ですと、まさに「この範囲の周波数帯を電気信号に変えている」という意味だと思います。
ところが、レコーダの録音能力のほうですと「192khzの音が録れる」というのは間違いないのですが「より高音が録れるフォーマットのほうが低音も良くなる」というのを知りました。
音は『波』で、高音ほど「細かな波」になるので、可聴域を超えるような高音を記録するためには1秒の間に何回記録するか?という記録の回数を増やさなければなりません。
1秒当たりの記録回数がより多くなって細かくなると、低音の緩やかな波も、そのカーブがより自然な形になるので、自然に近い音が再現される、ということでした。
私はbit数のほうが「記録の細かさ」なのかと思っていましたら、hz数のほうも記録の細かさなのでした。
すごく納得しました。
楽器を録音すると、やはりフォーマットが高音質設定なほど、楽器本来の持ち味が再現されているように感じます。
野鳥録音ですと、すごく近い距離で鳴いたものなどは息遣いとか、臨場感で違いが出るかもしれませんが、遠くの声ですと差は出ないのだろうなぁと想像しています。
ただ、フロート演算になってS/N比が向上しているということなので、小さめの録音レベルで録音しても大丈夫、録音後に増幅してもノイズが持ち上がらない、そうなので、それは楽しみにしています。
この場合の「ノイズ」はホワイトノイズのことだと思うので、環境ノイズは当然録音されるので、増幅すれば環境ノイズも持ち上がるので、その効果は「?」になるのかもしれませんが、ホワイトノイズが無いほうがノイズリダクションが少なくてすむので、多少の効果はありなのか?もです。すごく楽しみです。
長々とすみません。
投稿: すずき♂ | 2022年5月25日 (水) 16時05分
勝手ながら、同じ文章のコメントが2つありましたのでひとつを削除いたしました。
なるほど、高品位の音の意味がわかりました。よく映像の4Kや8Kに例えられますが、音の場合はもっと深い効果があると思いました。
あと、トンデモ話か科学的な話なのか微妙な説なのですが、聞こえない音でも身体は感じて、それが自然音の癒やし効果を高めるという説があります。論文もあるそうですし、単行本も出ています。この効果は、高品位であればあるほど大きいということになります。
なんとなくありそうだけど、科学的な検証、プラシーボ効果をどうやって検証したのでしょうか。
投稿: まつ | 2022年5月25日 (水) 20時19分
ポータブルレコーダー所感
サンプリング周波数192KHzというスペックは、96KHzまで収音できることになりますが、
そこまで高域が伸びたマイクロフォンがあるのかな?と思います。
また、それを再生できるのか、そして聞いてみて、その違いが判るのかな?ということも。
ハイレゾ対応を謳って、スーパートゥイーターを搭載している、あるスピーカーは、
再生上限は、50KHzです。
また1台50万円超のある最新機種のスピーカーの再生周波数帯域は、34~35KHz
となっていました。音楽の再生を前提としている以上、これで充分ということでしょう。
個人的には、この分野の先駆者であるローランド R-09 の 24bit/48kHz
というスペックは妥当なものだったのかなとも思えます。
ただ、同じ48KHzで録っても、新しい高性能ADCチップ搭載の機種の方が音が良い
ということは、あるかもしれません。
レコーダーで私が気になるのは、使い勝手とマイクロフォンの良さです。
※この機種は、レベルオーバーによる音割れのリスクを回避できるようなので、
一発勝負で演奏会等の収録をする場合には、重宝な機能と思います。
投稿: ekai | 2022年5月31日 (火) 14時08分
ekai様
コメント、ありがとうございます。
ご意見、ごもっともです。録音するハードが追いついていないいない上に再生も同様です。
現状で、どれだけ高品位録音を楽しんでいる人がいるのでしょう。また、そのなかで野鳥の鳴き声にこだわって聞いている人がどれだけいるのか、知りたいところです。とにかく、秋葉原にあったプロショップはほぼ全滅ですから、もはやオーディオマニアも絶滅に瀕しているのではないかと心配しています。
私としては、フラッグシップ機ということで使わない機能が多くても、作りがしっかりしているだろうという期待の元に使用しています。
また、とにかく高品位で録音しておけば、将来分析方法が開発された場合、役に立つデータになる可能性もあるのではと思って、重要な場面では高品位録音をするようにしています。
などなど、今後の課題は多いです。
投稿: まつ | 2022年6月 2日 (木) 10時35分