小林重三の『狩猟鳥類掛図』
少しずつ身辺の整理をしています。断捨離、終活、生前形見分けと言ったら良いでしょうか。また、毎日家にいることが多くなって、モノに埋もれているのもストレスです。すでに段ボール箱換算で10箱分は処分したと思うですが、減った感じがしないのも困ったモノです。
今回、山階鳥類研究所に小林重三の原画2点などを寄贈しました。以前、ブログの記事にしたイワシャコとケリの絵です。そういえば、掛図もあったはずなので、いっしょに寄贈しようと探しました。
クロゼットの奥にあるのを見つけ出しました。
掛図のタイトルは『狩猟鳥類掛図』で「其の1」から「其の5」まであります。当時の分類からみて、種類が網羅されていますので、この5巻で揃いだと思います。
ここでは、著作権の関係ですべてをアップできませんので「其の1」のみ引用ということで、アップいたします。
農商務省農務局の名前があり日本鳥学会発行となっています。両方に関わっていた内田清之助さんの仕事でしょう。
発行は大正13(1924)年の記録がありますが、手元にある「改訂狩猟忠類掛図解説」のリーフレットは、農林省山林局編、日本鳥学会発行とあり、昭和12(1937)年発行となっています。ということは、少なくとも、こうした掛図が改訂も行われ10数年にわたって、使用されていたことになります。
私の小学生の昭和30年代は、まだ授業で掛図が使われていました。内容はまったくおぼえていませんが、黒板の上にかけられ、先生が指し棒で解説した様子を覚えています。少し前ならばビデオ、今ならPadの役割を掛図がしていたことになります。
この掛図は、大正7(1918)に行われた狩猟法の改訂にともなって作られたものと推測されます、それまで保護鳥獣を指定する制度から、すべてを保護鳥獣として、その中から狩猟鳥獣を指定して捕獲が可能な方式となりました。指定された狩猟鳥をハンターに教えなくてならず、そのための掛図だったと思います。
狩猟のための講習会は度道府県ごとにおこなわれたはずで、せいせい掛図は50セット。仮に予備も含めて倍としても、100にしかなりません。現場では消耗品あつかいだったかもしれませんし、改訂されたら破棄されたはずです。現存するものは、わずかだと想像できます。
小林の絵を見ると。とてもていねいに描かれていることがわかります。また、1図こと構図も決まっていて、大きさの異なるでありながら、鳥と鳥の間隔やスペースが均一に感じるよう配置されています。これは、とても面倒なデザインをしていることになります。また。構図に合わせて鳥のポーズにも変化をつけています、小鳥など皆同じ方向を向いても文句はでないと思いますが。バラつきが絶妙です。力を入れた良い仕事をしている感じです。このまま、床の間に飾っても絵になる掛図となっています。
なお、タバコのヤニでしょうか、かなり黄ばんでいます。昔の講習会ですから、タバコの煙が渦巻くなかで行われていたのでしょう。また、軸装の木製の軸が破損しているものもありました。
寄贈してわかったのですが、山階鳥類研究所のT見さんの話では、ニスが表面に塗られているようだとのこと。軸装も本来ないかもしれないとのことでした。ですので、かなり大切に使用されたのかもしれず、そのため残った可能性もあります。
驚くのは当時の狩猟鳥です。なんと、アホウドリも狩猟鳥だったことがわかります。最初、この掛図に描かれた鳥たちは、狩猟鳥との区別のために保護鳥も取り上げられていているだと思っていました。アホウドリのみならず、クマタカ、イヌワシもいるのですから、そう思っていたのですところが、すべて狩猟鳥です。ようするに、すべて保護鳥になったとはいえ、取りたい鳥や飼いたい鳥は狩猟鳥に指定されたことになります。当時の猟友会の力、行政の姿勢を垣間見ることができます。
当時の狩猟鳥獣のリストは当然わかるのですが、こうして絵を見ると鳥たちの暗黒時代を実感します。小林重三の絵だからこそ、なおさおさら実態が伝わってくる感じです。
追記:他の本を探していたら、掛図の解説書が出てきました。かなりぼろぼろになっていました。『狩猟鳥類掛図解説』のタイトルです。A5版57ページのパンフレットという装丁です。奥付を見ると、大正13年3月28日印刷、29日発行となっています。年度末、ぎりぎりの事業だったのでしょうか。他の資料にあった発行年で合っていたことになります。
あとがきやまえがきなどはなく鳥の解説のみで、いたってそっけない内容です。小林重三の名前もみつけることはできませんでした。
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